| 「使徒の使命」 はじめに 今日も、わたしたちは、聖書が教える生ける真の神を礼拝し、神から豊かな祝福を受けながら、今年の歩みをしていきたいと思います。それで、わたしたちは、礼拝においては、コリントの信徒への手紙を学んでいます。コリントの信徒への手紙は、ギリシア南部のコリント教会の諸問題解決のため、使徒パウロが紀元５４年から５７年の間に、海を隔てたトルコ半島の西海岸の町のエフェソから書いたものと考えられます。 では、今日の個所は、どんな個所でしょう。すると、１世紀の使徒の使命とは何かがパウロにより教えられています。使徒は、世界で、はじめてキリストによる救いのよき知らせである福音を説教し、宣べ伝えた人々ですが、当時のクリスチャンたちの間においては、使徒の使命や立場や任務や責任などについて、必ずしも正しく認識されていませんでした。 そのため、使徒についてのいろいろな誤った考え方が出てきて、ギリシア南部のコリント教会においては、ギリシアの思想的指導者のように人間的に考え、パウロとアポロを対立させ、ある人々は、パウロを持ち上げ、自分はパウロにつくと主張してパウロにつくことにより、知恵や知識を得られると誇り、また、ある人々は、アポロを持ち上げ、自分はアポロにつくと主張し、アポロにつくことにより知恵や知識を得られると誇り、互いに人間的に争い、競い、コリント教会の大事な一致を妨げていました。 そこで、パウロは、今日のところで、使徒について、人はどのように考ええるのが正しいのかを教えるのです。それで、わたしたちも、世界ではじめて、キリストによる救いによき知らせである福音を説教し、宣べ伝えた使徒の使命や立場や任務や責任は、どのようなものであったのかを学び、今日、１世紀の使徒とは違いますが、福音を説教する牧師や教師の使命や立場や任務や責任についての理解を深めていきたいと思います。 そこで、今日のところから３点のお話をいたします。第１点は、使徒たちは、キリストに仕える者、また、福音の管理者であったという点です。第２点は、コリント教会の人々は、使徒たちを、自分勝手に対立させ、悪く判断し、誤ったという点です。第３点は、キリストによる救いのよき知らせである福音を宣べ伝えるための１世紀の使徒たちの労苦はすさまじいものであったという点です。 １．使徒たちは、キリストに仕える者、また、福音の管理者でした 早速、第１点に入ります。第１点は、使徒たちは、キリストに仕える者、また、福音の管理者であったという点です。すなわち、使徒たちは、主人ではなく、主人であるキリストに全力で仕える僕、また、ギリシアの思想家のように自分の思想を語るのではなく、キリストによる救いのよき知らせである福音を委ねられ忠実に説教していく管理者であったという点です。 １節がそうです。「こうゆうわけですから」とありますが、これは、パウロが、これまで述べてきたことを踏まえて語りますよという意味で、コリント教会においては、パウロとアポロを対立させ、ある人々は、パウロを過大評価し、自分はパウロにつくと主張し、パウロにつくことにより、知恵や知識を得られると誇り、また、ある人々は、アポロを過大評価し、自分はアポロにつくと主張し、アポロにつくことにより、知恵や知識を得られると誇り、互いに人間的に争い競って、コリント教会の大事な一致を妨げていた状況を踏まえ、パウロが語ることを表しています。 では、自分はアポロにつく、自分はアポロにつくと主張し、互いに人間的に争い競って、コリント教会の大事な一致を妨げていた状況を踏まえ、パウロは、何を語ったでしょう。 すると、パウロは、自分とアポロは、対立する者でなく、どちらも主人であるキリストのために共に全力で働く僕であること、また、どちらもキリストによる救いのよき知らせである福音説教し、管理する者であると考えるように、命じたのです。 １節に、「人は・・・考えるべきです」というのは、強い言い方で、もともとの言い方は、「人は、・・・と考えなさい」という命令形です。すなわち、コリント教会の人々は、パウロとアポロを対立させて考え、自分はパウロにつく、自分はアポロにつくと自分勝手に主張し、人間的に誇っているが、その考え方を止め、パウロとアポロは対立せず、どちらも主人であるキリストのために、共に全力で働く僕であること、また、どちらもキリストによる救いのよき知らせである福音を忠実に説教し、管理する者であると考えなさいと強く、パウロは命じているのです。 そして、「人はわたしたちを」とありますが、「わたしたち」というのは、ここでは、具体的には、コリント教会を開拓伝道して建てたパウロと、パウロが次の伝道地に向かうため、コリントを去ってから、コリント教会に赴任した後任のアポロのことです。少し後の６節で、「兄弟たち、あなたがたのためを思い、わたし自身とアポロに当てはめて、このように述べてきました」ということからも、「わたしち」は、パウロとアポロであることがわかります。 また、さらに、もう少し後の９節で、「神はわたしたち使徒を」を言っていますように、「わたしたち」とは、パウロとアポロのことを「わたしたち使徒を」と言っていますので、アポロも広い意味で、使徒と呼ばれていたことがわかります。 そして、パウロは、自分とアポロのどちらも、共に「キリストに仕える者、神の秘められた計画を委ねられた管理者」と言っていますが、「キリストに仕える者」の「仕える者」とは、もともとは、奴隷という意味です。しかも、単なる奴隷ではく、当時の大きな船の一番下の船底で、汗水流して、必死に全力で、呂を漕いで船を前に進めていく奴隷のことでした。 昔、ベンハーという映画が来ましたが、その映画の主人公のユダヤ人ベンハーは、ローマ軍に捕えられ、奴隷とされ、ローマの船の一番下の舟底で、汗水流して必死に全力で呂を漕いで船を前に進める奴隷にされた場面がありましたが、その奴隷を表す言葉です。ですから、主人のために、必死に全力で仕える最下層の僕を表します。それゆえ、パウロもアポロも互いに対立するものでなはく、主人キリストのために必死に全力で、共に仕える僕だったのです。 また、「神の秘められた計画を委ねられた管理者」とありますが、「神の秘められた計画」というのは、以前にもお話しましが、ギリシア語でミュステーリオンと言いまして、今日の「ミステリー」の語源で、秘密、奥義、神秘、謎、不思議、隠れたものなどを意味します。すなわち、神の永遠の御子キリストの十字架に死によって救いの道が開かれるという神の御計画は、旧約時代においては、ずーっと長い間、言わば、秘めれ、隠されてきたことですので、「神の秘められた計画」と言われます。一言で言えば、キリストによる救いのよき知らせである福音のことです。 そして、「管理者」とは、何かを保持し、保っていく人のことですから、これをパウロとアポロに当てはめますと、パウロとアポロは対立する者でなく、どちらも共に、無限の価値のあるキリストによる救いのよき知らせである福音を、積極的に説教し、宣べ伝えて保持し、保っていく管理者であったのです。ですから、パウロとアポロは、コリント教会の人々が人間的に考えたように、対立する者ではまったくなかったのです。 こうして、パウロとアポロは、どちらも無限の価値のあるキリストによる救いのよき知らせである福音を、積極的に説教し、宣べ伝えて保持し、保っていく管理者でしたが、福音の管理者に強く要求されることは、その管理者が忠実であると判断されることです。すなわち、パウロとアポロは、どちらも委ねられた福音を「忠実に」、すなわち、純粋に、ときがよくとも悪くとも、いつも常に熱心に語りましたので、パウロは、世の終わりの最後の審判の日に、主イエス・キリストから誉れを受ける確信を持つことができました。 すなわち、パウロは、福音への忠実さについて、コリント教会のある人々により批判されていても、すなわち、それは、人間の法廷で、不忠実と判決されるようなことですが、そのようなことがあっても、パウロは、福音への忠実さに関して、自分に少しの問題もありませんでした。 また、さらに、パウロは、福音への忠実さについては、自分自身で判断さえもしないと言うのです。何故なら、パウロは、自分には、何らやましこと、すわわち、良心の責めがまったくないのです。しかし、だからと言って、自分が義とされる、すなわち、自分が絶対正しいとは、言わないと言うのです。というのは、パウロが、福音に忠実であったことの判定は、世の終わりに再臨して、最後の審判を行う主イエス・キリストのなさることなので、パウロは、主に任せているからです。それゆえ、コリント教会のある人々ように、先走って、パウロは福音に忠実でないなどと批判をしてはならないのです。これは、人間的な自分勝手な先走りです。 ３節に「あなたがたから裁かれようと」とありますが、これは、コリント教会には、パウロは福音に忠実でないと批判する人々がいたことを表し、それは、人間の法廷で裁かれて、パウロは、福音に忠実でないと判決をくだされるようなものです。でも、パウロは、そのことを少しも問題にしませんでした。何故なら、パウロが福音に忠実なことは、主イエス・キリスの再臨のときの世の終わりの最後の審判で、神御自身が明らかにしてくださるからです。 そのため、パウロは、福音への忠実さに関して、「自分で自分を裁くことをしない」、すなわち、福音への忠実さに関して、自分は判断を下さないと言うのです。何故なら、パウロが福音に忠実なことは、主イエス・キリスの再臨のときの世の終わりの最後の審判で、神御自自身が明らかにしてくださるからです。「自分で自分を裁くことをしない」というのは、福音への忠実さに関して、自分は判断を下さないとことを表します。 また、パウロは、福音への忠実さに関して、「やましいこと」、すなわち、自分の良心に責められることがまったくありませんでした。でも、だからと言って、自分は、福音に対して忠実であることが、義とされ、正当化されるとは言いませんでした。何故なら、パウロが福音に忠実なことは、主イエス・キリスの再臨の世の終わりの最後の審判で、神御自身が明らかにしてくださるからです。 ３節に「自分にはやましいところはないが、それでわたしが義とされているわけではありません」というのは、パウロは、福音への忠実さに関して、「やましいこと」、すなわち、自分の良心に責められることがないこと表します。でも、だからと言って、自分は、福音に対して忠実であることが、義とされる、すなわち、自分は正しいとは言わないと言うのです。何故なら、パウロが福音に忠実で、正しいことは、主イエス・キリスの再臨のときの世の終わりの最後の審判で、神御自身が明らかにしてくださるからです。 考えてみすと、人というのは、人間の外側だけを見たり、自分の好みに合わせて、自分勝手に、しかも的外れの判断をして争いをするのですが、神は、最後の審判のとき、人の心の中に隠されていたよいことや種々のよい企てまでも明らかにし、神から誉れを受けられるようにしてくださるのですから、コリント教会の人々は、人間的に自分勝手に、的外れの判断をし、党派を作って争いをしないように、パウロは厳かに戒めたのです。 ５節後半に「主は闇の中に隠されている秘密を明るみに出し」というのは、神は、人の心の中に隠されているよいことをすべて知っておられ、最後の審判のとき、誉れを与えてくださるという意味です。また、「人の心の企てをも明らかにされます」というのは、神は、人の心の中にある種々のよい企て、よい目的、よい思い、よい意図もすべて知っておられて、最後の審判のとき、誉れを与えてくださるという意味です。 すなわち、パウロもアポロも、心の中で、コリント教会の人々の益になることをあれやこれや一杯考えていたのです。それにもかかわらず、「親の心、子知らず」ではありませんが、コリント教会の人々は、パウロとアポロの使徒たちの心を知らずに、パウロやアポロを、人間的に自分勝手に悪く裁きました。でも、すべてを知りたもう神は、世の終わりに、パウロやアポロに、「忠実な僕よ、よくやった」とおほめの言葉を与えるのです。 パウロやアポロなどの１世紀の使徒たちが、理解されずに、悪く判断され、裁かれても、彼らが福音を忠実に伝えてくれたおかげで、福音が今日まで伝わり、今、あなたが救われ、わたしが救われているのです。今日のわたしたちも、福音の奉仕者たちの苦労を決して忘れないようにしたいと思います。 ２．コリント教会の人々は、使徒たちを対立的に判断して誤りました 第２点は、コリント教会の人々は、高ぶり、誇って、使徒たちを対立的に判断し、誤ったという点です。すなわち、第１点で見ましたように、パウロは、自分とアポロは対立せず、自分もアポロもどちらも、キリストに全力で仕える僕、また、キリストによる救いのよき知らせである福音を純粋に説教する忠実な管理者であることを語りましたが、それを語ったのは、コリント教会の人々が、パウロが語ったことを模範にして、使徒たちの一方を持ち上げ、他方を見下すことを即刻止めることを学ぶためでした。６節から９節がそうです。 そこで、パウロは、６節で、「兄弟たち、あなたがたのためを思い、わたし自身とアポロとに当てはめて、このように述べてきました」と言い、パウロは、コリント教会の人々が、人間的に高ぶり、誇って、自分勝手に、パウロを持ち上げ、自分はパウロにつくと主張し、アポロをないがしろにし、アポロを悪く裁くことをしないように、また、逆に、アポロを持ち上げ、自分はアポロにつくと主張し、パウロをないがしろにし、パウロを悪く裁かないように戒めたのです。 そして、人間的に自分を誇り、高ぶることは、何よりも神の言葉である旧約聖書全体の根本精神を超え出てしまう罪でした。６節後半に、「書かれているもの以上に出ない」という御言葉を見て、この御言葉は、旧約聖書のどこの引用かと思うのですが、実は、どこにありません。それで、この御言葉は、旧約聖書全体の根本精神を表していると考えられています。 そして、「聖書に書かれていること以上に出ない」ということの意味は、人は、聖書に書かれていること以上に進んではいけない、すなわち、高ぶりと誇りは、いけないことで、罪になることを教えているのです。 それゆえ、人が高ぶり、誇って、自分勝手に、一人の福音の奉仕者を持ち上げ、他の一人の福音の奉仕者をないがしろにし、すなわち、見下し、悪く裁くことをしてはならないのです。６節後半に、「一人を持ち上げて、ほかの一人をないがしろにし」というのは、直接的には、パウロが生きていた１世紀の福音の奉仕者たちを意味し、信者たちが、１世紀の福音の奉仕者たちを、人間的な自分勝手な判断で裁いて、一人の福音の奉仕者を持ち上げ、他の一人の奉仕者を見下すことを意味しますが、そのようなことをしないように、パウロは強く戒めているのです。 確かに、コリント教会のある信者たちは、他の信者たちと異なって、知恵や知識を多く持っていた優れた人々もいたのですが、では、誰が、彼らを他の信者たちよりも優れた者にしたのでしょう。すると、神です。神が、賜物として彼らに与えたのです。それゆえ、彼らは、高ぶったり、誇ったりできないはずです。彼らが、持っていたよきものは、すべて神から恵みの無償の賜物としていただいたものです。それなのに、神から賜物としていただいたのではないかのようにして、彼らは、へりくだりと謙孫を忘れ、人間的に高ぶり、誇って、福音の奉仕者たちを、自分勝手な好みで判断し、悪く裁いていました。 そこで、パウロは、彼らの目を覚ますために、痛烈な皮肉を語ります。すなわち、彼らは、もうすでに、世の終わりが来て、神の国が完成し、神の国の霊的祝福で満足し、満ち足りているかのようであり、すでに、「大金持ちになっており」、すなわち、順風満帆で富み栄え、栄華を誇っているかのようであり、パウロやアポロなどの使徒を差し置き、出し抜いて、人間的に自分勝手に、栄華を誇る王様になったかのように、ふるまっているが、実際に、本当に王様になってくれたらよかったのにと思うと、パウロは痛烈な皮肉を語っています。何故なら、彼らが王様になれるのなら、彼らを信仰に導いた使徒である自分やアポロは、なおさら、彼らと共に、また、一緒に、王様になって、栄誉を受けていたであろうからと、痛烈な皮肉を語り、彼らの目を覚まそうとしました。７節から９節がそうです。 ８節に、「既に大金持ちになっており」というのは、もうすでに、世の終わりが来て、神の国が完成し、すべてが順風満帆で、富み栄え、栄華を誇っているかのようであることを表します。また、「勝手に王様になっています」というのは、彼らが、栄華を誇る王様になったかのように、自由気ままにふるまっている様子を表します。 こうして、コリント教会の中には、神の御言葉である旧約聖書に書かかれているへりくだりと謙孫の域を超え出て、人間的な高ぶりと誇りに陥り、事もあろうに、福音の管理者のパウロやアポロの使徒たちを、また、他の奉仕者たちを、自分勝手に対立的に判断し、悪く裁いていたのです。 このようにして見てきますと、１世紀のギリシア南部のコリント教会は、本当にこれが教会かと疑問を抱かざるを得ない状況であったことがよく伝わってきます。教会も、皆で、気をつけないと、このようになることがあり得ることを覚えて、今日のわたしたちは、全聖書の根本精神であるへりくだりと謙孫をいつも身つけ、人間的な高ぶりと誇りに陥ることなく、神に喜ばれる真の教会を力を合わせて、今の時代の日本に共に建てていきたいと思います。 ３．１世紀の使徒たちの福音を宣べ伝えるための労苦 第３点は、キリストによる救いのよき知らせである福音を宣べ伝えるための１世紀の使徒たちの労苦はすさまじいものであったという点です。すなわち、コリント教会のある人々は、もうすでに世の終わりが来て、神の国が完成し、神の国の霊的祝福で満足し、満ち足りているかのようであり、すでに、「大金持ちになっており」、すなわち、順風満帆で富み栄え、栄華を誇っているかのようであり、パウロやアポロなどの権威ある使徒を差し置いて、自分勝手に栄華を誇る王様になったかのように、気ままにふるまっていました。しかし、福音を宣べ伝えるための１世紀の使徒たちの労苦は、彼らが判断できないすさまじいものであったのです。 そこで、パウロは、福音を宣べ伝える使徒である自分やアポロの労苦が、どれほどすさまじいものであるかを、コリント教会の人々に、たとえ用いて語るのです。すなわち、当時、ローマの円形闘技場の見世物の最後に、死刑囚が引っ張り出されてて、互いに戦せられたり、あるいは、鍛え上げられた剣闘士と言われる人々と戦わせれたり、あるいは、猛獣と戦わされたりして、屈辱と苦しみの中で死んでいく死刑囚に、自分たち使途をたとえて、パウロは語りました。９節から１３節がそうです。 ９節に、「神はわたしたち使徒を、まるで死刑囚のように最後に引き出される者」とありますが、この言い方で、当時、ローマの円形闘技場の見せ物の最後に引っ張り出される死刑囚に、自分たち使徒をたとえています。 今日でも、ローマには、コロセッウムと言われる階段式の円形闘技場が残っていて、観光スポットになっています。今は、崩れていますが、パウロの時代は、崩れておりませんで使われていました。 では、そこで、当時、どのようなことが行われていたのでしょう。すると、見せ物の最後のショーとして、犯罪を犯して、死刑を宣告された死刑囚が、円形闘技場に引っ張り出され、死刑囚は互いに剣を持って戦せられたり、あるいは、鍛え上げられた剣闘士と言われる人々と戦わせられたり、あるいは、猛獣と戦わせられたりして見せ物とされました。 そこで、パウロは、使徒である自分たちも、福音を宣べ伝えることによって、死に直面する迫害の苦しみを受けていましたので、闘技場で最後に引っ張り出されて見世物にされる死刑囚にたとえたのです。こうして、円形闘技場においては、死刑囚は、人々の見せ物となりましたが、使徒であるパウロたちは、１世紀の地中海世界のいたるところで見せ物にされ、さらに、人間だけの見せ物となったのではなく、神から遣わされた天使たちに対してさえも、見せ物になったことを語って、使徒たちが、まるで死刑囚のように、死に直面する苦しみを受けながら、福音を宣べ伝えていくことは、偶然のことでなく、福音が宣べ伝えられ始めた１世紀における避けることのできない神の御心であることを明らかにしました。 ９節前半を見ますと、「考えてみると、神はわたしたち使徒を、まるで死刑囚のように最後に引き出される者となさいました」とあり、主語は、神御自身であり、パウロやアポロを死刑囚のように、死に直面する苦しみを受けながら、福音を宣べ伝えることをさせるのは、神御自身の御心であり、神御自身がお許しになったことを、パウロは明白に語りました。福音が、最初に宣べ伝えられ始めた１世紀のローマ帝国が支配する地中海世界において、円形闘技場で、最後の見せ物として引っ張り出されて、苦しみと死に直面させられる死刑囚のようにされることが神御自身の御心であり、神御自身がお許しになったことと覚悟しなければ、パウロやアポロたちは、福音を宣べ伝えることができなかったのです。１世紀は、そうゆう時代であったのです。 しかし、ところが、コリンと教会の人々は、パウロやアポロの使徒たちの死刑囚のようなそのような言葉を超える苦しみを少しも理解せず、人間的におごり、高ぶっていました。そこで、パウロは、これまた、痛烈な皮肉のかたちで、自分やアポロとコリント教会の人々を比べ、３つのことを述べました。すなわち、自分やアポロは、「キリストのために愚か者」、「わたしたちは弱い」、「わたしたちは侮辱されている」のに、コリント教会の人々は、「あなた方はキリストを信じて賢い」、「あなたがたは強い」、「あなたがたは尊敬されている」という３つのことを痛烈な皮肉のかたちで語りました。 すなわち、パウロやアポロの使徒たちは、神の永遠の御子キリストが、へりくだり、人となり、当時、極悪人にしか課せられない最も屈辱的な死刑の方法であった十字架につけられて死ぬことにより、人類の救いの道が開かれたという人間の理性に反することを全力で宣べ伝えているので、この世の人々からは、「愚か者」とあざけられていました。それに対して、コリンと教会の人々は、自分たちは、キリストを信じて、神の知恵をもっている「賢い者」と人間的に安易に高ぶっていました。 また、パウロやアポロは、自分の霊的弱さを自覚し、いつも神への祈りを通して、神の力を求めていたので、「わたしたちは弱い」と言いましたが、コリント教会の人々は、本当は、霊的な乳飲み子のようで、霊的に固い物が食べられないほど、霊的に弱かったにもかかわらず、自分たちは、霊的に強いと、人間的に安易に高ぶっていました。 また、コリント教会の人々は、「尊敬されている」、すなわち、もうすでに、世の終わりが来て、神の国が完成し、そのとき受けるべき誉れと栄光を、もうすでに受けているかのように自分勝手に思い込んでいましたが、パウロやアポロの使徒たちは、「侮辱されている」、すなわち、まだ、世の終わりが来ず、神の国も完成していないので、そのとき受けるべき誉れと栄光をまだ受けていなと語りました。 １３節に、「あなたがたは尊敬されているが、わたしたち侮辱されている」というのは、原文の言い方は、「あなたがたは誉れを受けているが、わたしたちは、誉れを受けていない」という言い方で、世の終わりが来て、神の国が完成するとき、信じる者は、誉れと栄光を受けるのですが、コリント教会のある人々は、もうすでに、世の終わりが来て、神の国が完成し、そのとき受けるべき誉れと栄光を、もうすでに受けているかのように自分勝手に安易に思い込んでいたことを表しています。 しかし、実際には、まだ、世の終わりが来ず、神の国も完成していないので、パウロやアポロの使徒たちは、そのとき受けるべき誉れと栄光をまだ受けていないのです。その証拠に、「今の今まで」、すなわち、まさに、この手紙を、エフェソの町で書いている今でも、パウロやアポロの使徒たちは、福音を宣べ伝えるのに、苦労、苦しみ、屈辱を数え方によりますが、１０個も受けていたのです。 すなわち、食べるものに事欠く「飢え」、喉の渇きを潤すものにも事欠く「渇き」、「着るものがなく」、すなわち、いつも、ぼろを着て、寒さに震え、「虐待されること」、すなわち、こぶしで頭や顔を殴られ、「身を寄せるところなく」、すなわち、身の落ち着くところがなくさまよい歩きます。「苦労して自分の手で稼いでいます」、すなわち、パウロは、自分の手で懸命に天幕作りをしながら、自分の生活のために疲れ果てるまで稼きながら自給伝道をしました。 そして、実は、１１節と１２節の文章には、注目すべきことが、２つあります。一つは、そこで挙げられた苦労と苦しみは、わざわざ、現在進行形になっていて、この手紙を書いている今も継続していることを表します。その感じを出せば、「今も飢え続け、今も渇き続け、今もぼろを着て、寒さに震え続け、今もこぶしで頭や顔を殴られ続け、今も身を寄せて落ち着くところもないことが続き、今も自分の手で懸命に天幕作りをしながら、自分の生活のために疲れ果てるまで稼きながら自給伝道し続けていますということになり、この手紙を書いているトルコ半島の西海岸のエフェソで伝道している、まさにその今も、それらの苦労と苦しみが続いていることを生々しく表しています。わたしたちは、涙無くしては、ここを読めないでしょう。 そして、もう一つの注目すべきことは、これらの苦労と苦しみは、約束の救い主メシアのイエスさま御自身の苦労と苦しみを思い出させることです。救い主のイエスさまも、救いを宣べ伝えるために、旅をし、飢え、渇きました。着るものもごくわずかでした。また、救い主のイエスさまは、捕えられたとき、ローマ兵に頭を叩かれ、また、最高法院で裁判にかけられたときには、頬を叩かれました。また、救い主のイエスさまは、「身の寄せる所」、すなわち、身を寄せて落ち着くところがありませんで、「きつねには穴があり、空の鳥には巣がある。しかし、人の子にはまくらする所はない」と言われました。ですから、救い主のイエスさまに生じたことは、救い主のイエスさまを信じて、救い主のイエスさまを宣べ伝える者にも同じように生じるのです。 そして、さらに、パウロやアポロの使徒たちは、「侮辱されては祝福し」、すなわち、極悪人にしか課せられなかった神に呪われた十字架につけられた人物を、事もあろうに、何と、人類の唯一の真の救い主と宣べ伝えているので、人々から激しい敵意をもって、ののしられ、悪口を浴びせられるのです。でも、決して、一度も、ののしり返したりせず、「優しい言葉を返しています」、すなわち、彼らの迫害の罪が赦され、彼らも救われるように神の祝福を彼らに祈るのです。また、身心に苦痛を受ける迫害をされても、仕返ししたりせず、忍耐し、耐えています。 こうして、この手紙を書いている今の今に至るまで、パウロやアポロなどの使徒たちは、「世の屑」、すなわち、掃いて捨てられるこの世のちり、また、「すべてのものの滓」、すなわち、すべてのもののゴミであると、１世紀の人々からさげすまれ、嘲られたのです。 今日の日本のクリスチャンであるわたしたちも、信仰のない人々から、クリスチャンであることをからかわれたり、あるいは、他の人々と同じ宗教行事を行わないゆえに、嫌味を言われたりすることは、あるかもしれません。しかし、「世の屑」、すなわち、掃いて捨てられるこの世のちり、また、「すべてのものの滓」、すなわち、すべてのもののゴミと言われて、さげすまれ、嘲られたことはないでしょう。 でも、１世紀においては、これがごく普通のことでした。パウロやアポロなどの使徒たちは、掃いて捨てられるこの世のちり、また、すべてのもののゴミと言われる中で、全力で、十字架につけられたキリストを宣べ伝えました。それゆえ、福音は続き、今日、あなたが救われて真の人生を、日々、喜んで歩み、また、わたしが救われて、真の人生を、日々喜んで、今、歩んでいるのです。それゆえ、わたしたちは、１世紀のパウロやアポロなどの使徒たちの苦労を思うとともに、わたしたちも、今の時代に、いろいろな苦労を伴う伝道の働きを、聖霊の力に支えられ、少しでも前に進めていきたいと思います。 結び 以上のようにして、今日のところを見ます。キリストによる救いのよき知らせである福音を宣べ伝えることには、いつの時代でも苦労が伴うことを、改めて覚えますが、わたしたちも、力を合わせて、福音を証し、伝えるためのいろいろな努力や工夫や知恵を尽くしていきたいと思います。 お祈り 主イエス・キリストの父なる神さま、 あなたの御心により、１週間を支えられ、今日、また、こうして主の日の礼拝に導かれ感謝いたします。 今、わたしたちは、御言葉を通して、福音宣教には苦労が伴うことを学びましたが、また、同時に、実りも約束されていることを覚え、今年もみんなで力を合わせて、福音を宣べ伝えていくことができるように、御霊の力をお与えください。 信じただけで、本当に救われ、わたしたちの罪が恵みにより赦され、心を平安と喜びで満たし、潤し、そして、あなたの御栄光を表す真の人生に変えてくださるよき知らせである福音を、心から信じることができるように、御霊の働きをお与えください。 これらの祈りを、主イエス・キリストの御名によって、御前にお献げいたします。アーメン。
|