「十字架の言葉」
１章１８節―２５節
はじめに
わたしたちは、９月の歩みをしていますが、今日も、聖書が教える生ける真の神を、心から礼拝したいと思います。では、今日の個所は、どのようなところでしょう。すると、パウロが、どうしても宣べ伝えようとしていた福音の力が、印象深く、かつ、実に、力強く語られているところです。
すなわち、十字架で、キリストがわたしたちの身代りに死んでくださったという福音の言葉・教えは、罪からの救いを得させる神の偉大な力が十分現われているので、この世の知恵や知識と混ぜ合わせたりしないで、単純明快に、確信をもって、宣べ伝えていくというパウロの、とても強い決意が表明されています。
そこで、今日のわたしたちも、十字架で、わたしたちに代わって死んでくださったキリストを宣べ伝える言葉である福音の力を、自分の魂に深く確信して、人々に伝えていきたいと思います。
１．「十字架の言葉」とは、十字架についての言葉・教えのことです
さて、そこで、まず、わたしたちは、十字架で、わたしたちの身代りに死んでくださったイエス・キリストを宣べ伝える言葉、すなわち、福音は、信仰によって受け止めないゆえに、滅びつつある人々にとっては、理性に反する愚かなものとして、理解されます。しかし、信仰によって受け止め、救われつつあるわたしたち信徒にとっては、罪からの救いを得させる神の偉大な力が十分現われているものであることから見たいと思います。
すなわち、パウロは、前回学びましたように、自分は、洗礼を授けることは、他の人に幾らでも委ね、任せることができる。しかし、異邦人の使徒として立てられているゆえに、異邦人に福音を宣べ伝えることは、他の人に、委ねたり、任せたりすべきことではなく、何があっても、自分自身が宣べ伝えるべき使命があると表明しました。
では、使徒パウロが宣べ伝える福音とは、一体、どのようなものだったのでしょう。すると、使徒パウロが、宣べ伝える福音、すなわち、よき知らせとは、十字架につけられたキリストが罪からの救いを与えてくれるという、もう、すでに、一定の決まった内容を持っている言葉あるいは教えでした。１８節がそうです。
１８節に、「十字架の言葉」とありますが、「十字架の言葉」とは、十字架に
ついての言葉あるいは十字架についての教えという意味で、十字架につけられたキリストを、自分の救い主と信じるだけで、本当に救われるという教えの言葉のことで、キリスト教信仰の中心的なメッセージ、キリスト教信仰の中心的な教えを表します。
そして、この十字架の言葉あるいは教えは、信じないゆえに、滅びつつある人々にとっては、人間の理性に反する愚かなものとして、断固、反対され、拒否されます。しかし、今、わたしたち救われつつある信徒にとっては、この「十字架の言葉」・教えは、実際に、現実に、事実として、罪からの救いを得させる神の力として力強く働くのです。
１８節に、「滅んでいく者にとっては」と、「わたしたち救われる者にとっては」と、２種類の人々が比較、対照的、コントラスト的に出ていますが、実は、原文では、どちらも、わざわざ、現在分詞になっていて、その意味を出せば、今滅びに向かいつつある者と、今、わたしたち救われつつある者という言い方です。
すなわち、人が滅びるか、救われるかの最終的なことは、世の終わりの最後の審判のときにはっきりすることであり、今は、まだ、最後の審判のときではないので、「十字架の言葉」を信仰しない人々は、今は、最後の審判のときの滅びに向かいつつあるのであり、彼らには、「十字架の言葉」は、極悪人にだけがかけられる十字架で死刑にされたキリストが、人類の救い主であるということは、人間の理性に反する愚かなものと見えるのです。
しかし、「十字架の言葉」・教えを信じているゆえに、わたしたち信徒は、今、最後の審判のときの永遠的な救いに向かって歩みつつありますが、そのわたしたちには、「十字架の言葉」・教えは、信じるわたしたちには、完全な救いを得させる神の強い力として働くのです。
また、「滅んでいく者にとっては愚かなもの」とありますが、「愚かなもの」という用語は、侮辱と軽蔑を表す強い用語で、もともと、「馬鹿げていること」とか「馬鹿馬鹿しいこと」という意味です。そして、もともと、この言葉は、１世紀当時、人々が、キリスト教信仰に反対して、激しく浴びせた非難の言葉です。
すなわち、キリスト教は、天上から来た神の子が、人類の救いのために、身代わりとなって、極悪人にしか課せられなかった十字架で死んだと言っているが、そのようなことは、人間の理性に反する馬鹿げたこと、道理に適わぬ馬鹿馬鹿しいことと激しい非難の言葉を浴びせていたのですが、パウロは、その言い方を用いて、確かに、神の子が、身代りになって、当時の死刑の仕方である十字架で死んだという十字架の言葉・教えである福音は、信仰で受け止めないゆえに、今、滅びに向かっている人にとっては、愚かなもの、馬鹿げたもの、馬鹿馬鹿しいものに見える。しかし、信仰で受け止めて、今、救われつつある信徒にとっては、最後の審判のとき、完全な永遠の救いを得させる神の強い力が十分に現れており、救われつつある人は、そのことを、今、十分確信できると、パウロは言うのです。
「わたしたち救われる者には神の力です」とありますが、「力」という用語は、ギリシア語では、デユナミスという用語で、今日のダイナマイトの語源となった用語です。ダイナマイトの力は、大きく、強いものです。人間の力では、どうにもならない固い岩でも、ドカーンと粉々に砕いてしまいます。
それと同じで、キリストが身代わりに死んでくださったという十字架の言葉・教えである福音は、人間がどうにもできない岩のように固い最後の審判における滅びの力を粉々に吹き飛ばしてしまう神の偉大な力が現れているのであり、信仰によって、完全で永遠的な救いに向かって、救われつつあるわたしたち信徒は、神のその力を、今、十分確信でき、神に裁かれ、滅ぼされることが、決してない真の人生を、平安と喜びの中で、日々、歩むことができるのです。
２．神は、この世の知恵を愚かなものとして退けました
以上のようにして、キリストが十字架で身代りに死んでくださったという十字架の言葉・教えである福音は、信仰で受け止める者には、罪と滅びからの救いを得させる神の力であることが、わかりましたが、では、十字架の言葉である福音以外には、人に、救いを得させるものは、この世に本当にないのでしょうか。
すると、本当にまったくないのです。考えてみますと、この世には、驚くほど知恵がある人、驚くほど賢い人がいて、人間理性で考え出したこの世の知恵というものがあります。しかし、生まれつきの罪ある人間理性で考え出されたこの世の知恵は、救いのために、聖書の教える真の神がいますことを認識することができません。また、聖書が教えるその真の神が、恩寵によって備えてくださった救いの道をまったく認識することができません。
そこで、神は、人間の知恵によっては、救いに至ることはできないことを、すでに、早く、旧約時代から、はっきり教えてくださっていました。実は、旧約時代に、このようなことがありました。イエスさま出現の７百種数十年前の預言者イザヤの時代のことです。当時、エルサレムを中心としたイスラエル南部が、大国のアッシリア帝国に攻められようとしていました。そこで、エルサレムの人々は、何とかして、救われたいと思いました。そして、本来であれば、皆で、救いのために、神を信頼すれば、よかったのです。ところが、エルサレムの民は、口では、神を信頼すると言いながら、実際には、信頼しませんでした。そして、エルサレムの知恵ある人や賢い人は、自分の理性で、あれやこれや考え、エルサレムの民を救うためのこの世の知恵を絞りました。
しかし、神は、救いを求めて、この世の知恵に頼ってはならないと警告しました。その警告の言葉が、今日のコリントの信徒への手紙１章１９節に、引用されました。１９節に、鍵括弧に入っている御言葉がありますが、これは、言葉は少し違っていますが、旧約聖書イザヤ書２９章１４節の引用です。
そして、この旧約聖書イザヤ書２９章１４節の意味は、神は、エルサレムの知恵ある者の知恵を役に立たないものとして壊し、エルサレムの賢い者の賢さを意味のないものとして捨て去るで、彼らの知恵に、エルサレムの民は、頼らないようにとの警告の言葉です。
そして、実は、その警告の通りになりました。エルサレムの知恵ある人々や賢い人々は、自分の理性であれやこれや考えて、何と、昔、自分たちの先祖が奴隷とされていたエジプトに頼ることを決めました。そして、やがて、アッシリア大軍が攻めてきて、エルサレムに迫って来ました、そころが、頼みのエジプト軍は、助けに来てくれませんでした。こうして、人間理性で考え出したこの世の知恵は、人に救いを得させないことが明らかになりました。
ちなみに、その後、エルサレムは、どうなったのでしょう。すると、神は、ある夜、一人の御使いを遣わし、一晩のうちに、１８万５千人のアッシリア兵を倒しました。そこで、アッシリア軍は、驚き、あわてふためいて、アッシリアに逃げ帰ったのです。これで、救いの力は、神にあることが、明白になったのです。
このようにして、歴史の実際の出来事を通して、神は、この世の知恵は、人に救いを得させないことを教訓として、早くから、そして、はっきりと旧約時代から教えてきましたが、このことは、パウロの１世紀の時代も同じでした。
実は、パウロが生きていた当時の１世紀の地中海世界においても、知恵のある人々がいたのです。ギリシアには、知恵ある思想家たちがいました。イスラエルにも、自らを知者と自称していた律法学者たちがいました。また、ギリシアにも、イスラエルにも、知恵をもって、鋭い議論や論争が得意な論客と言われる人々がいました。
そして、彼らは、皆、人間理性が考え出した知恵を持っていました。しかし、彼らは、自分の知恵で、真の神がおられることを認識することができませんでした。また、その真の神が備えてくださった救いの道を認識することができませんでした。
２０節を見ますと、「知恵のある人はどこにいる。学者はどこにいる。この世の論客はどこにいる。とありまして、ここに、３種類の人々が出てきます。それで、わたしたちは、これら３種類の人々は、具体的に、誰かと思うのですが、いろいろな理解がありますが、一つの理解の仕方だけをお話しておきます。
「知恵ある者」とは、ギリシアの思想家を表し、「学者」とは、イスラエルの自分を知者と称していた律法学者を表し、「この世の論客」とは、ギリシアにも、イスラエルにもいた、鋭い議論や論争ができた論客と言われた人々のことであると理解します。
その他にも、さらに、幾つかの理解があり、どれを取るかは、分かれるところのですが、どれを取るにしても、これら３種類の人々に共通していることは、もちろん、一目瞭然で、彼らが、人間理性によるこの世の知恵を持っていたことです。
しかし、知恵を持っていたその彼らでさえも、真の救いを与えてくださる神がいますことを認識することができませんでした。また、神が備えてくださった救いの道を認識することが、まったくできませんでした。
そんなことを言うと、イスラエルの律法学者は、旧約聖書を持っていたので、真の神がいることを認識していたではないかという反論が出てきます。確かに、イスラエルの律法学者は、旧約聖書を持っていましたので、真の神がいることは認識していました。しかし、その真の神が備えてくださったキリストの十字架の言葉・教えの宣教を通して、人が救われるという救いの道については、まったく認識することができませんでした。イスラエルの律法学者は、神が与えてくださった人の生き方の規範である律法をすべて完全に行って、自力で救われるという律法主義による救いの方法を、頑なに主張して譲りませんでした。それは、何故かと言えば、自分のこの世の知恵で、勝手に考えたからです。
こうして、パウロが、この手紙を書いた１世紀の地中海世界には、この世の知恵を持った人々がいました。しかし、彼らは、真の救いを与えてくれる神がおられることを認識しないし、また、イスラエルの律法学者のように、真の神がおられることは認識しても、その神が備えてくださったキリストの十字架の言葉・教えの宣教による救いの道については、まったく認識できませんでした。
そこで、神は、彼らのこの世の知恵を、救いには役に立たない愚かなもの、すなわち、馬鹿げたもの、あるいは、馬鹿馬鹿しいものとして、退けたのです。すなわち、パウロは、２０節後半で、「神は世の知恵を愚かなものにされたではないかと語りましたが、「愚かにされた」という言い方は、とても強い言い方です。
そして、「愚かなもの」という言い方は、すでに、１８節で、「滅んでいく者にとっては愚かなものですが」と出ていて、「愚かなもの」とは、もともとは、キリスト教信仰に猛烈に反対する人々が、使っていた言い方でした。すなわち、神の子キリストが、人間の罪を身代りに背負って、極悪人にしか課せられない十字架で死刑にされて死ぬことによって、人類に救いが開かれるなどということは、理性に反する馬鹿げたものと言って、猛烈に反対しました。
しかし、今度は、パウロが、その強い言い方で、神が、この世の知恵を、人の救いに対して、何の役にも立たない「愚かなもの」、すなわち、馬鹿げたものであることを、逆に強調したのです。
本当に、その通りです。１世紀の地中海世界においては、キリスト教信仰以外にも、雨後のたけのこのように、宗教が次々と多く生まれ、どの宗教も、救いを与えることを約束していました。しかし、どの宗教も、しょせん、この世の知恵で考え出された宗教であったので、次々と生まれては、次々と泡のように消えていきました。残ったのは、十字架のキリストを宣べ伝えるキリスト教信仰だけでした。
３．救いのため、神がよしとされた方法は十字架のキリストの宣教でした
こうして、この世の知恵で考え出した救いの道は、まったく役に立たなかかったのです。そして、この世の知恵は、救いには、まったく役に立たないことは、神の知恵に適っていました。なぜなら、神は、この世の知恵によらない救いの道を、まったく別の方法で、人間のために備えてくださったからです。
では、神が、人に、救いを得させるために、備えてくださった別の方法とは、どのような方法でしょう。すると、それが、神の子キリストが、人の罪を代わりに背負って、当時、極悪人にしか課せられなかった十字架で死刑にされて死ぬという、人間の目から見れば、愚かなものとしか見えないことを、告げ知らせ、信じる者が救われるという方法であったのですが、パウロは、この方法こそ、神がよしとされた唯一の方法と断言して、十字架のキリストを、１世紀の地中海世界に力強く宣べ伝えました。
そこで、２１節後半を見ますと、「神は、宣教という愚かな手段によって信じる者を救おうと、お考えになったのです」とありますが、原文の言い方は、「神は、宣教の愚かさによって信じる者を救うことをよしとされたのです」という言い方で、「手段」という用語は、もともとは入っていません。
また、「神は、宣教という愚かな手段によって信じる者を救おうと、お考えになったのです」とあり、「お考えになったのです」と言われていますが、原文では、「神は、宣教の愚かさによって信じる者を救うことをよしとされたのです」という言い方で、「神は、・・・よしとされたのです」という言い方です。
では、「宣教の愚かさ」とは、一体、何でしょう。すると、それは、これまで、すでに、何度も出てきていますが、神の子キリストが、人間の罪を身代りに背負って、極悪人にしか課せられない十字架で死刑にされて、死んだことを、伝道者たちが宣べ伝えることは、人間の目から見れば、馬鹿げているもので、理性に反するものに見えるので、その意味で、「宣教の愚かさ」と、パウロは言いました。
実際、１世紀のローマ帝国が支配する地中海世界において、パウロをはじめとするキリスト教の伝道者たちは、神の子キリストが、人間の救いのため、人間の罪を身代りに背負って、極悪人にしか課せられない十字架で死刑にされて、死んだことを宣べ伝えたとき、どこにおいても、キリスト教信仰は、何と、馬鹿げたことを宣べ伝えていることかと、激しく反対されたのです。
そこで、パウロは、キリスト教信仰は、神の子が、人間の救いのため、人間の罪を身代りに背負って、極悪人にしか課せられない十字架で死刑にされて、死んだことを宣べ伝えるので、人々の目から見れば、愚かなもの、すなわち、馬鹿げたものと見られるが、しかし、そのことが宣べ伝えられ、人が信じると、本当に救われるというこの方法こそ、神御自身が、よしとした唯一の方法で、他には、救いの方法はないことを断言するのです。
しかし、大多数のユダヤ人たちは、十字架につけられた神の子キリストを、救いのために、求めることをしませんでした。なぜなら、ユダヤにおいては、旧約時代から、木にかけられる者は、神に呪われた者だからです。すなわち、悪を犯したゆえに、死刑にされて、木にかけられて、さらし者にされることは、神から、呪われ、捨てられたことの証拠でした。それゆえに、ローマ式の十字架にかけられることは、ユダヤ式の木にかけられることと同じで、ユダヤ人の目には、十字架にかかったキリストは、神に呪われた者としか映りませんでした。そのため、ユダヤ人は、十字架のキリストに救いを求めず、神からのしるしである奇跡を求めたのです。
しかも、その場合の神からのしるしである奇跡は、ユダヤ人たちが、自分たちの気に入る奇跡を求めたのです。そのため、パウロたちの１世紀のキリスト教伝道者たちも、確かに、神からのしるである奇跡を行いました。しかし、ユダヤ人たちの気に入る奇跡ではなかったので、ユダヤ人たちは、パウロたちが語る救いを受け入れず、激しく反対し、拒否しました。
また、１世紀の地中海世界のギリシア人は、救いを、知恵や知識に求めました。これは、ギリシアの長い伝統で、ギリシア人にとっては、理性を納得させ、理性を満足させる知恵や知識に救いを探し求めました。
それゆえ、パウロが、コリントに来る前に、ギリシアの中心地のアテネのアレオパゴスという広場で、説教し、キリストの復活について語ったとき、彼らは、復活という奇跡は理性に反するとして、嘲笑って拒否したことが、使徒言行録１７章３２節に記されています。
こうして、１世紀のユダヤ人は、救いのために、しるしを求め、ギリシア人は、知恵を探し求めました。しかし、パウロたち、１世紀のキリスト教伝道者たちは、確信がぐらつくことなく、十字架についたキリストを救いのために力強く宣べ伝えたのです。
考えてみますと、信仰で受け止めないのであれば、十字架につけられたキリストは、ユダヤ人には、「つまづかせるもの」、すなわち、救いに至らせないものとして作用し、異邦人には、「愚かなもの」、すなわち、理性に反する馬鹿げたものとして作用しますが、ユダヤ人であろうが、ギリシア人であろうが、この世から召し出されたクリスチャンたちにとっては、十字架のキリストは、真の救いを得させる神の偉大で、強い力であり、神の素晴らしい知恵なのです。
それで、わたしたちは、ここまで来ますと、疑問が出ます。パウロは、今日の個所で、神の子キリストが、人間の救いのため、十字架にかかって死んだということは、人々の目から、愚かなもの、すなわち、馬鹿げたものと見られると、何度も言っていますが、これは、どのようなことなのかと思うのです。すると、実は、十字架のイメージが、今日とパウロの時代の１世紀では、まったく違うのです。今日、人々は、十字架に、憎悪感、嫌悪感、拒否感、抵抗感を持つ人は少ないでしょう。
今日、クリスチャンでない人でも、十字架のネックレスを平気でしているでしょう。誰かが、十字架のネックレスをしているのを見て、その十字架のネックレス、素的ねとか、きれいねとか、かっこいいねとか、平気で言うでしょう。十字架を、悪いものであるかのように言う人は、ほとんどいないと言えるほどでしょう。
しかし、１世紀のローマ帝国が支配している地中海世界において、十字架のイメージは、今日とは、ぜんぜん違うものでした。当時、十字架を、素的ねとか、きれいねとか、かっこいいねとかいう人など、だれもいませんでした。逆です。十字架ほど、悪いものはなかったのです。十字架と聞いて、人々は、ゾーっとしたのです。１世紀においては、十字架は、死刑の方法でした。しかも、極悪人にのみ課せられる最もおぞましく、最も残酷で、最も恐ろしい死刑の方法として、広く知られていました。それゆえ、ローマの市民権を有している者は、大罪を犯しても、十字架刑は免除されていました。
そのように、十字架にかけられて死んだということは、不名誉であり恥でした。そのため、十字架につけられて死んだ人の話など、人々は最も聞きたくない話でした。
また、もし、自分の友人、知人に十字架につけられて死んだ人がいるとか、自分の身内に十字架につけられて死んだ人がいるのであれば、それは、恥なので、人々はそのことには、触れないし、話さないし、隠したのです。誰が、自分の身内に、十字架で死刑にされて死んだ人がいることを語るでしょうか。誰も語りません。むしろ、隠すのです。
こうして、当時は、十字架につけられて死んだ人に対して、人々は、強い憎悪感、嫌悪感、拒否感、抵抗感を持っていました。しかし、パウロたち、１世紀のキリスト教伝道者たちは、十字架につけられたキリストについて、語ることを、まったく全然恥としなかったのですし、少しも隠しもしなかったのです。恥とするどころか、隠すどころか、逆に、人を救う神の力、神の知恵がついに歴史に現れたとして、１世紀の地中海世界のどこにおいても、積極的に告げ知らせ、進んで宣べ伝え、迫害にも屈せず力強く証言したのです。
何故なら、確かに、神の子が、人間の救いのために、人間の罪を身代りに背負って、十字架で死刑にされて死んだことを信じる者が救われるということは、当時の人々の理性に反する愚かなことと見えました。また、大体、神の子が、極悪人にしか課せられない十字架で死刑にされるなどということは、神の子の弱さを表し、そんな弱い神の子が人を救えるはずがないと、さんざん批判されました。
でも、パウロは、確かに、十字架で死なれた神の子キリストは、人々の目に愚かと見え、人々の目に弱さと見えますので、それは神の愚かさ、また、神の弱さと言えます。しかし、永遠の滅びから、人を、実際に、現実に、本当に、事実として、救うことができるので、神の愚かさは、そのようなことができない人よりも賢く、神の弱さは、そのようなことができない人よりも強いと、十分言うことができます。
２５節に、「神の愚かさは人よりも賢く、神の弱さは人よりも強いからです」とありますが、これは、何も、神は、実際に愚かであるとか、神が、実際に弱いということを言おうとしているのではありません。それを言うなら、神は、無限に賢いお方であり、無限に強いお方です。
そこで、この言い方は、当時の人々が、神の子キリストが、人間の救いのために、十字架で身代りに死んでくださったと宣べ伝えるキリスト教信仰は、愚かで、馬鹿げている。また、神の子キリストが、人間の救いのために、十字架で身代りに死んだと宣べ伝えるならば、そんな神の子は弱くてだめだと、非難していた言い方を、パウロが、逆に使って、神の子キリストが、人間の救いのために、十字架で身代りに死んでくださったことの人を本当に救う力を表明しているのです。
すなわち、確かに、十字架で死なれた神の子キリストは、愚かと見えたり、あるいは、弱さと見えたりしても、しかし、人を永遠の滅びから救うという、人間には決してできないことができるのですから、人間の賢さや人間の強さ以上であると言って、パウロは、この表現で、十字架につけられたキリストの人を救う偉大で強い実際の力を表しているのです。
結び
こうして、今日のところを見ます。神の子キリストが、人間の救いのために、十字架で身代りに死んでくださったと宣べ伝える十字架の言葉・教えを、わたしたちも、パウロのように魂の最も深いところで確信し、永遠の滅びから救われつつあることを心から感謝し、今週も、神をほめたたえながら歩んでいきたいと思います。
お祈り
いつくしみ深い天の父なる神さま、
あなたの変わらぬ御心に支えられ、わたしたち、各々のところで、１週間の歩みをしましたが、今日、また、御前に、礼拝に導かれ、感謝いたします。
今、わたしたちは、御言葉を通して、十字架の言葉・教えの、人を本当に救う偉大で、強い力について、学びました。どうか、わたしたちも、十字架の言葉・教えを聞くとき、いつも信仰によって聞き、永遠の滅びから救われつつあることを確信し、キリストを遣わしてくださったあなたに、心からの感謝し、あなたをほめたたえ、また、わたしたちも、十字架の言葉・教えを宣べ伝えていくことができますように、聖霊の導きをお与えください。そして、十字架の言葉・教えを聞いた人々が、実際に、救われますように、聖霊の働きをお与えください。
また、今日、種々の都合や事情で、礼拝に出席できなかった方々を、それぞれのところで、顧みてください。健康の弱さを覚えている方々をお守りください。いろいろな試練に遭っている方々に、忍耐、励まし慰め、希望をお与えください。
今日から始まるわたしたちの新しい１週間を、どこにあっても豊かに祝福してください。
これらの祈りを、主イエス・キリストの御名によって、御前にお献げいたします。アーメン。
