ヨシュア記 3章1節から17節

「いざ約束の地へ」

はじめに

 旧約聖書に親しむという趣旨で、旧約聖書のお話しを順番にしていくことになっております。すでに、創世記、出エジプト記、民数記、申命記の順番で取り上げてきましたが、本日は、申命記の次のヨシュア記を取り上げます。

では、ヨシュア記とはどんな内容かと言いますと、神の民イスラエルの大きな転換期を記している書物です。すなわち、出エジプトの指導者モーセが死んだ後、モーセの後継者となったヨシュアに率いられ、イスラエルの民がいよいよ約束の地カナンに入って、先住民族と戦い勝利し、カナンの地を自分のものとして受け取るという内容です。イエス・キリスト出現の1400年前、あるいは、1200年前の出来事です。

そして、そのヨシュアが、イスラエルの民を率いてカナンに入る姿は、主イエス・キリストが、わたしたちを導いて天国に入れてくださる姿をある意味でさし示しています。ヘブル語のヨシュアという言葉は、主は救いなり、すなわち、救いは主にあるという意味ですが、そのヘブル語のヨシュアという名前をギリシャ語で表すと、イエスとなります。ですから、名前からも、ヨシュアは、イエス様の型、タイプ、雛型、予型であることを表しています。

 それで、ヨシュア記の具体的な内容は、ヨルダン川を渡って約束の地カナンに入ったこと、また、カナンに入り、最初の戦いにおいて、遊女ラハブの助けを得て、エリコの町との戦いで勝利したこと、その後、アカンという人の罪のため、アイという町での戦いに敗れますが、しかし、信仰を立て直し、アイという町と再度戦って勝利すること、その後も、先住民族と次々と戦って勝利を納め、ついに、カナンの地を自分たちのものとすること、最後に、指導者ヨシュアは、聖歌の中で歌われているように、「われとわが家は主に仕えん」、すなわち、「わたしとわたしの家は主に仕えます」とイスラエルの民に説教をし、神への信仰を勧めた後、ヨシュアが召されたことを記して、ヨシュア記は終ります。

それで、これらのことを1回では、とてもお話しできませんので、本日は、ヨルダン川を渡ることに絞ってお話をします。それまでの荒れ野での40年間の旅も終わり、いよいよヨルダン川を渡って約束の地カナンに入っていくという新しい大切な段階です。

わたしは、40年ということを聞きますと、2つのことを思い起します。ひとつは、わたしたちの教派、改革派は、創立以来、今年で57年目になりますが、今から17年前は、40年目でした。そして、当時は、イスラエルの民が出エジプトし、40年間の荒れ野の旅の後、いよいよヨルダン川を越え、約束の地カナンに入っていくことに例えられたりもしました。改革派教会も40年経ったが、イスラエルの民が荒れ野の40年の旅が終った年数と同じだ、これからもがんばらなければと、いろいろな場面で励ましあったことを思い出します。

もうひとつのことは、わたしたちの南浦和教会も、もうすぐ40年になるということです。教会設立が1965年ですので、あと2年たって2005年になれば、教会設立40年目になります。そこで、40周年を目指して、皆で歩もうとしている大切な時期です。わたしたちは、時間がどんなに経過しても、神の祝福と真実は常に変わらないことを覚え、神と共に喜んで歩んでいきたいと思います。

こうして、40年経つということは、新しい段階にはいること、また、転換期を表すと言えますが、わたしたち一人ひとりの人生においても、イスラエルの民と同じように、新しい段階を迎えたり、転換期を迎えたりする時があるでしょう。そのような時にも、わたしたちは全能で慈深い神を信頼し、祝福をうけつつ、人生の新しい段階に入ってきたいと思います。

1. イスラエルの民が自力でヨルダン川を渡るのは、不可能でした

 早速、聖書に入り、イスラエルの民がヨルダン川を渡ることを見ていきましょう。まず、指導者ヨシュアは、その時、イスラエルの民にどんなことをさせたかを見ましょう。すると、ヨシュアは、イスラエルの民をヨルダン川の岸辺に連れて行き、そこに3日間宿営させ、雪解けで、岸1面にまで水かさが増しているヨルダン川を見させ、自分たちの力で渡ることは全く不可能であることを確認させたのです。

 ヨルダン川という川は、イスラエルの地図を見れば、必ず出ていますが、パレスチナ地方で1番大きな川です。ヘルモン山という山に源流を発し、イスラエル北部のガリラヤ湖を経て、南に流れ、最後に死海に流れ込む川です。川の長さは、252キロにおよびます。川幅がどのぐらいあったのかと思って、いろいろ調べてみましたが、そこまではわかりませんでした。しかし、出エジプトしたイスラエルの民は、今や、40年の荒れ野の旅を終わり、ヨルダン川の東側までやってきましたが、約束のカナン地は、ヨルダン川の西側にありますので、ヨルダン川を渡らなければ、カナンの地には入れません。約束の地カナンに入るためには、どうしても、ヨルダン川を渡らなければなりません。

それで、少し後の15節を見ますと、「・・・春の刈り入れの時期で、ヨルダン川の水は堤を越えんばかりに満ちていたが・・・」とありまして、この時は、大麦の刈り入れの時期で、今のカレンダーにすれば、3月から4月になります。そして、3月から4月は、パレスチナにおいては、ヘルモン山という山に積もった雪が溶け、ヨルダン川に流れ込むので、水かさが平常時よりはるかに上がり、水は、「堤」、すなわち、岸辺まであふれている状態でした。すなわち、1年のうちで最も水の量の多い時でした。

 従って、その時期にヨルダン川を渡るということは、とても難しく危険であったのです。人間の目から見れば、とても無理で、とても不可能なことです。そこでヨシュアは、イスラエルの民をヨルダン川の河岸まで、わざわざ連れて行き、そこに3日間、キャンプさせ、岸まであふれている水かさの多いヨルダン川を、毎日見させ、「こんなに水量が多く、流れも激しいのであれば、これじゃとてもじゃないが渡れないなあ」と、イスラエルの民は毎日話し合ったでしょう。こうして、自分たちの力でヨルダン川を超えてゆくことは、全く不可能であることを十分に確認させたのです。

3章1節に「・・・ヨルダン川の岸に着いたが、川を渡る前に、そこで野営した」とありますが「野営した」というのは、ヨルダン川のほとりに、イスラエルの民を宿営させた、キャンプさせたという意味です。また、2節に「3日たってから」とありますが、3日間は、ヨルダン川のほとりでキャンプしたことを表しています。「3日」は聖書では、十分な時間を表しますので、十分な時間、ヨルダン川のほとりで、キャンプし、自分たちの力では、水かさのました、また、流れの速いヨルダン川を渡ることはできないことを確認したのです。

こうして、ヨシュアは、まず、イスラエルの民が自力でヨルダン川を渡ってカナンの地に入ることは不可能であることをはっきりと教えたのです。そして、このことは、わたしたちが、生まれつきの自力で、救いに入ることはできないことに霊的にあてはめることができます。わたしたち一人ひとりは、どんなに頑張っても、自分の力で自分を救いに入れることはできないのです。それは、イスラエルの民が自力でヨルダン川を渡るのが不可能だったのと同じです。

2.シュアは、民に神を恐れ敬うことを学ばせました

さて、では、イスラエルの民が、水かさがとても多くなったヨルダン川を、自力で渡ることは到底不可能であることを、十分に知ったときに、ヨシュアはどうしたかと思うのです。すると、ヨシュアは、4つのことをしました。ひとつづつお話します。まず、全能の神ご自身が、イスラエルの民とともにいてくださることを教えるために、祭司たちに、神の臨在を意味する契約の箱を担がせました。

 それで、私たちが今日の個所を見ますと、「契約の箱」あるいはそれに準じる言い方が9回も繰り返し出てきます。

3節「主の契約の箱をレビ人の祭司たちが担ぐのを見たなら」、

6節「契約の箱を担ぎ、民の先に立って川を渡れ」、そしてもう1回、「彼らは契約の箱を担ぎ、民の先に立って進んだ」、

8節「あなたは、契約の箱を担ぐ祭司たちに」、

11節「見よ、全地の主の契約の箱が」、

13節「全地の主である主の箱を担ぐ祭司たちの足が」、

14節「契約の箱を担いだ祭司たちは」、

15節「箱を担ぐ祭司たちの足が水際に浸ると」、

17節「主の契約の箱を担いだ祭司たちが」

以上のように、「契約の箱」あるいはそれに準じる言い方が9回も出てきます。では、契約の箱とは何かと言いますと、それはシナイ山で、神から与えられた十戒が入っているとても大事な箱のことです。すなわち、神がイスラエルの民と契約を結んでくださって、イスラエルの民とともにいて、イスラエルの民を恵みによって救い、祝福することのしるしでした。したがって、契約の箱が祭司によって担がれ、行列の先頭に行くということは、契約によってともにいてくださる全能の神ご自身が先頭に立って進んでくださり、イスラエルの民のために、今すばらしいみ業をしてくださることを意味しています。

しかし、ヨシュアは、同時に、イスラエルの民に、神を恐れ敬うことを学ばせるため、神の臨在を表す契約の箱から、約900メートル離れることを命じました。4節に、「契約の箱との間には約2千アンマの距離をとり、それ以上近寄ってはならない」とありますが、1アンマは、約45センチですので、2千アンマは、900メートルぐらいになります。すなわち、神の臨在を表す契約の箱から2千アンマ、約900メートル離れよということによって、神に対する恐れ敬いを教えたのです。

確かに、イスラエルの民は、恵みによって神の民とされ、神が親しく臨在してくださいますが、しかし、だからといって、イスラエルの民は、神を軽んじてはなりません。恐れ敬うという信仰の姿勢が大切です。今日でも同じです。神とわたしたちの関係は、イエス・キリストの罪のあがないにより、旧約時代とは比べ物にならないほど親しく、密接で、豊かで、愛と喜びに満ち溢れたものですが、しかし、だからといって、わたしたちは、神を軽んじてはなりません。常に、神を神として、恐れ敬うという信仰の姿勢が大切です。

3.シュアは、イスラエルの民に罪の清めの儀式をさせました

 では、その時、ヨシュアが行なった2番目のことは何かといいますと、それは、神のすばらしい御業に参加するために、イスラエルの民に罪の清めの儀式をさせたことです。5節がそうです。「ヨシュアは民に言った。『自分自身を聖別せよ。主は明日、あなたたちの中に驚くべきことを行われる』とありますが、「聖別せよ。」というのは、罪の清めの儀式をすることを表しています。具体的に、どんなことをしたのかは、記しておりませんので不明です。ある種の食べ物を控えたのか、衣服を洗い清めたのか、その他の儀式をしたのかと思いますが、特には記していませんので不明です。でも、イスラエルの民が、自分の罪を清める行動をして、明日行われる神のすばらしい御業に参加するために備えをしたことを意味しています。

そして、また、5節に「主は明日、あなたたちの中に驚くべきこと行われる」とありまして、「驚くべきこと」と言われておりますが、この「驚くべきこと」という言葉は、ヘブル語では「ニフロース」と言いますが、もともとの意味は、「超えている」、「超越している」、「はるかに超えている」という意味です。すなわち、人間の思いや常識をはるかに超え、超越した驚くべき神の奇跡を表す言葉です。私たち人間が、それを見たときに「ウワー」といって、驚くことを表しています。

 ですから、ヨシュアは、いつくしみ深く全能の神様が、明日、イスラエルの民の思いをはるかに超える驚くべき奇跡によって、水かさのましたヨルダン川を渡れるようにしてくださることを、すでに十分確信していたことがわかります。

 そこで、ヨシュアは、人間の思いをはるかに超える、驚くべき素晴らしい神の御業にイスラエルの民が用いられるため、イスラエルの民に罪の清めの儀式をさせました。いつの時代でも、いつくしみ深い全能の神は、神を愛する昔たちを用いて豊かに働くのです。今日も同じです。今日も、いつくしみ深い全能の神は、神を愛する者である教会とわたしたちを用いて、歴史の中で、素晴らしいことをしてくださるのです。

4.ヨシュアは、戦いに勝利の約束をし、イスラエルの民に希望を与えました

 さて、では、その時、ヨシュアがした第3番目のことは何かといいますと、これからの戦いに勝利の約束をし、イスラエルの民に希望を与えたことです。人が、生きるとき、必要な者は何でしょう。それは、希望です。

希望がなければ絶望になります。そして、絶望は何も良いものを生み出しません。絶望はしばしば人を死に至らしめさえもします。そこで、キルケゴールというキリスト教の思想家は、神への信仰を失った現代において、人は、希望がなく、絶望という死にいたる病に侵されていると警告を発し、人は、キリスト教の良き知らせである福音を聞き、神への信仰を取り戻し、真の希望を持って人生を歩むべきことを訴えまたが、ホントにそうです。希望は、人を生かします。

そして、人を生かす真の希望は、どこから来るでしょう。山のあなたの空遠くから来るのでなky、生ける神から来ます。そこで、イスラエルの民が、これから、ヨルダン川を渡って、カナン後に入っていくことは、カナンの地の先住民族と戦いになるわけですが、しかし、その戦いには、全能の計り知れない力を持った偉大な神ご自身が生きて、ともにいて戦ってくださるので、必ず勝利できることを、ヨシュアは約束し、イスラエルの民に希望と安心感を与えたのです。

 少し飛ばして、10節と11節を見ますと、「生ける神があなたたちの間におられ」とありますが、「生ける神」という表現は、カナンの先住民族たちが信仰している無力で力のない人の手で作られた神々と違って、力に満ち溢れ、今も、歴史の中に生きていて、イスラエルのための祝福になることを行うことができる真の神を表す表現です。聖書の教える真の神の特色は、なんと言っても生きておられて、ご自分を信ずる者たちのために、歴の中で、素晴らしい御業を実際に行うことができるところにあります。今日もそうです。神は、生きておられて、わたしたちのために日々祝福の御業をされています。

 また、10節には、カナン人、ヘト人、ヒビ人、ペリジ人、ギルガシ人、アモリ人、エブス人の7つの民族があげられていますが、これらは、カナンの先住民族の代表として7つの民族だけ考えられています。実際にはカナンの先住民族は、もっといますが、代表として7民族だけがあげられています。

こうして、ヨルダン川を渡って、カナンの地に入っていくということは、カナンの偶像を拝む先住民族と戦いをして、カナンの地を自分のものにしていくことになるのですが、ヨシュアは、契約によって、全能の神が生きておられて、ともに戦ってくださるので、必ず勝利することを約束し、イスラエルの民に希望を与えました。神の民の戦いは、勝利の約束された戦いですので、希望があります。

 今日も同じです。教会とクリスチャンには、いろいろな信仰の戦いがあります。あるときには苦しくて涙するときもあるでしょう。しかし、わたしたちの戦いには、神が生きて、ともにいてくださるので、必ず、勝利します。わたしたちの戦いは、勝利の希望のある戦いです。

5.全能の神の素晴らしい御業は世々にわたって記念し、感謝すべきものです

さて、では、その時、ヨシュアがした第4番目のことは、何かといいますと、ヨルダン川で、これからなされる全能の神の素晴らしい御業を世々にわたって記念し、感謝するために、ヨルダン川から12個の石を運び出し、向こう岸のギルガルというところに、その12の石を立てるため、12部族から1人ずつ選ぶように命じたことです。

 12節を見ますと、「今、イスラエルの各部族から1人ずつ、計12人を選び出せ」とありますが、これは、何のためかと思うのですが、その答えは、次の4章1節から7節に記されておりますように、神の素晴らしい御業を世々にわたって記念し、感謝するためです。すなわち、後の時代になって、イスラエルの民は、ギルガルに建てた12の石を見て、ヨルダン川を渡るときに、神が素晴らしいことをしてくださったということを、繰り返し思い出し、記念し、感謝するためです。神の御業は、その時だけで忘れられてしまうべきものではありません。

 したがって、これは、パターンとしてイエス様の十字架の死に似ているところがあります。イエス様の十字架の死もそうです。イエス様の十字架の死は、パンとぶどう酒で、その後も、繰り返し、記念とし、感謝すべきものです。その時だけで忘れられてしまうべきものではありません。そこで、聖餐式が設けられ、繰り返し、行なわれ、イエス様の死による救いを記念し、感謝します。

 以上のようにして、ヨシュアは、40年間の荒れ野の旅を終わり、いよいよヨルダン川を渡り、約束のカナンの地に入るという新しい段階を迎えたときに、イスラエルの民に、信仰の備えをしっかりさせたことがとてもよく伝わってきます。そして、このことは、今日の教会とクリスチャンにも当てはまるでしょう。教会が、新しい段階に入るとき、また、クリスチャンが人生の新しい段階に入るとき、信仰の備えをすることから始めるでしょう。そして、豊かな祝福を神から受けるでしょう。

5.民は、ヨルダン川の底をみんなが次々と渡って向こう岸へ行けました

 さて、ヨシュアに命じられたことをすべて行って、明日になりました。では、その日、一体どんなことが生じたでしょうか。すると、主の豊かな臨在を保証する契約の箱を担いだ祭司たちの足が、ヨルダン川に入るや否や、川底が現れ、その場から25キロほど上流のアダムという町のところで、水がダムのようにたまり、イスラエルの民はヨルダン川の底をみんなが次々と渡って、向こう岸へ行けたのです。

 14節から17節がそうです。15節を見ると「箱を担ぐ祭司たちの足が水際に浸ると、川上から流れてくる水は、はるか遠くのツァレタンの隣町アダムで壁のように立った」と記されていて、生き生きと描かれています。祭司たちの足が一歩水に入るや否や、水がすーっと引いていって、川底が現れてきた様子が生き生きと描かれていて、読む者の心は、「ウワー素晴らしい」と神への賛美で満たされます。まるで、自分自身が、今、ヨルダン川の中に、立っているかのように感じられます。

 なお、「ツァレタン」というのは、その地域の名称のことで、ツァレタン地方を表します。また、「アダム」というのは、町の名前です。ヨルダン川上流の25キロほどの地点にあった町です。そのアダムという町の付近を流れているヨルダン川は、高さが13メートルほどの粘土層の切り立った谷になっていたようですが、その谷が、ちょうど、ダムのようになり、水を多量にため、下流には流れないようにされたと考えられます。もちろん、神による素晴らしい奇跡です。また、そのためヨルダン川の水は「アラバの海」に流れ込まなかったといわれておりますが、「アラバの海」とは、死海のことです。ヨシュアの時代においては、「アラバの海」と呼ばれていました。

16節に「アラバの海」すなわち塩の海、死海のことですが死海に「流れ込む水は全く断たれ」とありますが、「断たれ」というのは、ヘブル語では、もともと「切る」という言葉です。したがって、全能で今生きて御業をされる神はその時、水かさの増したヨルダン川の水を「切った」という意味です。そして、水を切ることができるお方、水を切り離すことができるお方は、もちろん、水そのものを造られた偉大な創造主である神だけです。人間にはそんなことはできません。

こうして、全能で偉大な神は、イスラエルの民を祝福し、ヘルモン山の雪解けの水で岸まであふれているような多量のヨルダン川の水を2つに切り離し、25キロ上流のアダムという町の付近で、水をダムのようにしてせき止め、イスラエルの民が渡れるようにしてくださったのです。そこで、イスラエルの民は、底の出たヨルダン川を、老いも若きも、男も女も、また家畜も、すべて渡ることができました。

わたしは、説教の準備をしていて、この時のイスラエルの人々の気持ちは、どんな気持ちであったのかなあと思いました。わたしたちが、その時いたらどうだったでしょうね。神は今生きて本当に働いているという喜びでいっぱいだったでしょう。心がウキウキして、神を賛美する気持ちであふれていたでしょう。神を信じていることは、こんなに素晴らしいことなのかと実感したでしょう。自分たちに向けられた神の愛と力を実感したでしょう。理屈じゃありませんよ。理屈も大切なのですが、実感も大切なのです。自分たちは、神からほんとに愛されているととても強く実感できたでしょう。そして、ヨルダン川を渡ってカナンの地に入っていっても、自分たちは、この神に従っていこうという決意が喜んでできたでしょう。この祝福は一生忘れられないと思ったでしょう。この祝福を子々孫々に伝えようと思ったでしょう。本当に素晴らしい祝福の経験だったでしょう。そして、祝福を経験すれば信仰は続くでしょう。

 かつて、この時から40年前の出エジプト記の時にも、神はある意味で今回と似た奇跡を行ってくれました。指導者のモーセに率いられたイスラエルの民が、奴隷の地エジプトを喜びの声を上げ脱出しようとしていました。すると、エジプトの戦車隊が後ろから追いかけてきて、イスラエルの民を捕らえて、再び奴隷にしようとしていました。その時、イスラエルの民の目の前は水を満々とたたえた紅海でしたが、神はその紅海の水を2つに切り分け、紅海の底をあらわにして下さったので、イスラエルの民は、男も女も、老いも若きも、家畜も、すべてのものがその底を通って、向こう側へ逃れることができました。

 それから、40年の月日がたち、出エジプトしたイスラエルの民の世代の人々は、荒れ野の旅の中で生涯を終わり、次の世代に変わっていましたが、しかし、神の真実と祝福は変わりなく、イスラエルの民の次の世代の人々にも豊かに与えられ、今や、イスラエルの民は、大きな喜びの中で、ヨルダン川を渡り、約束の地カナンについに入ってきたのです。世代が変わっても、契約による、神の真実と祝福は変わりなく豊かに注がれるのです。

こうして、神は、ご自分の民の前進を妨げるものを取り除いてくださいます。神は、自ら、ご自分の民の先頭に立ち、ご自分の民を率いてくださいます。今日も同じです。神は、わたしたちを愛し、わたしたちの前進を妨げるものを取り除いてくださいます。神は、わたしたち一人ひとりを愛してくださり、わたしたち一人ひとりの大切な人生の先頭を、自ら歩んでくださいます。それゆえ、わたしたちは、いろいろなことがあっても、救いの完成を目指し喜んで歩むことができます。

結び

 以上のようにして、ヨシュア記から、ヨルダン川を渡る出来事を見ます。わたしたちの人生においても、ある時には、目の前に、水かさの増したヨルダン川のようなものがあるかもしれません。そして、わたしたち自身の力では、それを超えることができないかもしれません。しかし、いつくしみ深い全能の神は、恵みの契約によって、わたしたちと共にいて、わたしたちの目の前の水かさの増したヨルダン川のようなものも、2つに切り離し、わたしたちが前進できように必ず道を開いてくださることができます。わたしたちは弱い者ですが、しかし、常に、共にいてくださる神は、ヨルダン川を切り分ける神であることを覚え、これからも神に従う歩みをしていきましょう。聖霊なる神が、わたしたち一人一人の心に働いて、信頼の心を豊かにしてくださるよう祈りたいと思います。


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