イスラエルとの神の道
キリストとまた彼に従う者たちとの神の道が、新約聖書を貫いて走る中心的な糸であるように、予期的にイスラエルに対する彼の道は、旧約聖書における贖いの歴史の鼓動である。救いの計画のその展開は、少なくとも次の局面を含む：アブラヘムの召命における神の新しい主導権への普遍的な背景、選ばれた民としてのイスラエルの使命、イスラエルから教会へ走る線、契約の歴史としての旧約聖書、そして、キリスト教共同体内における永続する経典としてのヘブライ語聖書の場所と役割である。
Ⅱ．１．イスラエルの「前史」（Israel’s prehistory）
選ばれた民としてのイスラエルの歴史は、紀元前２千年頃、アブラハムの召命に始まる（創世記１２章）。しかしながら、この一見、無意味な、しかし、聖書の啓示における非常に重大な移行点は、救いの歴史の初めをしるしづけない。それを回復するためには、わたしたちは、失われたパラダイスにおいて与えられた「母なる福音」（the mother promise）（創世記３：１５）へ戻らねばならない。アダムにおける「新しい始まり」（the“new beginning ”）とアブラハムにおける「神の新しい始まり」（God’s “new beginning”）の間には、しかし、別の「新しい始まり」（another beginning）がある―ノアの時代における水の墓からの人類の神の保持である。すべてこのことは、人類の普遍的な歴史に属する。著者は、素早い数回の筆使いで、わたしたちの人間の血統の半分以上を覆い、アダムをノアに、アブラハムにリンクする
系統的なつながりの途切れのない線において数え切れない世代をつなぐのである。物語の早いペースは、著者が急いで族長たちに達することを示唆している。創世記１章から１１章は、それゆえ、イスラエルの「前史」（Israel’s “prehistory”）として見られる。アブラハムの召命への背景を形成するこの普遍的な視野は、それにもかかわらず、永続する重要性を持つ。それは、イスラエルは、世界に対する神の最後の言葉でないことを思い出させるものとして機能する。約２千年の間、神のメシア的な関心が、この選ばれた民への焦点を合わせたままであるが、それは、このヘブライ人の特定主義（particularism）ではなく、贖いにおける神の究極目的を反映しているより普遍的で原初的な視野なのである。このより大きい地平が、創世記１０章‐１１章における「諸国の登録」（the registry of nations）において、明らかに描かれている。そこに正式に記録された多数の見知らぬ名前は、イスラエル人でない国民が、救いの計画から永久に退けられることはないという聖書の原則を表している。というのは、すでに途中で、バビロン、ペリシテ、ティルス、クシュからの部外者も含めて、主が「彼の民を登録」（registered his people）したとき、彼はすでに「これはシオンで生まれた」と記録している（詩篇８７）。それゆえ、彼らは、ペンテコステにおいて、これらの他の国民が執筆を長く待っているとき、中央のステージに戻るとき、再び現れるのである（使徒言行録２：８－１１）。
Ⅱ．２．選ばれた民族
「しかし、あなたがたは、選ばれた民、王の系統を引く祭司、聖なる国民、神のものとなった民です。それは、あなたがたを暗闇の中から驚くべき光の中へと招き入れてくださった方の力ある業を、あなたがたが広く伝えるためなのです」（ペトロ一２：９）。これらの言葉は、イスラエルを思い起させる。とはいえ、その言及は教会に対してである。それらが運ぶ真理は、旧約聖書と新約聖書の両方に橋を架ける。イスラエルにとってと同様に、教会にとっても、神の選びの愛は、まったくいさおしのない愛顧である。それは、賜物であり、功績ではない。それは、それゆえ、自己の権力を拡大する特権ではない。それは、優越性の複合体に対する余地を作らない。神の無償で主権的な恵みは、むしろ緊急の奉仕への呼びかけであり、犠牲と苦しみでさえあり、確かにこれらの富を他の人と分かち合うための召しである。というのは、ペトロが、初期のクリスチャンたちに思い出させるとき、彼らは選ばれているので、彼らは、「暗闇の中から驚くべき光の中へと招かれた」のである。
教会は、選ばれた民である。しかしながら、救いの歴史の全貌の中で、キリスト信者たちは、神の最初の選民共同体ではない。その誉れは、イスラエルに属する。クリスチャンたちは、ローマ人の手紙の９章から１１章で、パウロによって非常に長い間、説明された点である神の初期の信仰の家族に入れられた終末の子供たちである。上に引用したペトロの言葉は、奴隷の家から約束後の帰還の彼らの旅の間中の神のイスラエルの初期の選びを響かせている。「あなたは、あなたの神、主の聖なる民である・・・」。「主はあなたを選び、御自分の宝の民とされた」。元奴隷のこのやっかいな一団を神が選んだ理由は何か。それは、単純にすべての民の中で最も少なかったからである。「では、なぜ神の主導権なのか。ただ単に「あなたに対する主の愛のゆえに、あなたたちの先祖に誓われた誓いを守るためである」（申命記７：６－８）。
ふさわしくない祝福のこの心強い言葉は、わたしたちを、イスラエルの長い巡礼の最初の状態に戻す―アブラハムの神の召しと族長たちへの神の約束に戻す。パスカル（Pascal）が言ったように、「哲学者たちと学者たちの神ではなく、アブラハム、イサク、ヤコブの神である」。その「さまようアラム人」（“wandering Aramean”）は、遊牧民の誰もアブラハムに新しい名前をつけなかったが、彼が墓以外の何も持たないであろう未知の約束の地に移動し、目標とするようにとの神の呼びかけに耳を傾け、答えたとき、純然たる従順の行為は、歴史的評価のすべての通常の基準によって、彼に永遠に忘れられることの報い（the reward of everlasting oblivion）を得させるべきであった。もちろん、パウロが、「神の賜物と招きは取り消されないものなのです」（ローマ１１：２９）と言うことを除いてはである。この「信仰者の父」（Father of believers）の選びは、その第２の思い出に残る日付であり、出国の出来事（the exodus event）である。神的な介入のこれら２つの劇的な瞬間は、全旧約聖書の遺産の意味を開けるマスター・キーである。それは、将来へのドアを開く。それは、今でさえも進行中の現在である。というのは、アブラハムを選ぶことにおいて、神は、イスラエルを選びつつあったのであり、また、イスラエルを選ぶことにおいて、彼は、キリストを選びつつあったのであり、また、キリストを選ぶことにおいて、彼は、今日の更新された民を選びつつあるのである
神の一貫した選びの愛だけが、彼らの歴史的な使命の道に沿って、アブラハムの子孫たちを支えることができた。それゆえ、「全旧聖書のメッセージは、最初の召しと最初の約束に基づく・・・しかし、この召しの響きは消えていない。アブラハムは、一人にされていない」（クラウス：Kraus、旧約聖書における神の民」２７頁）。身代わり的に、イスラエルは、全人類を代表している。その代理の役割において、イスラエルは、諸国民の間において、世界に対する神の主権的な支配と恵み深い目的の証を担う。「わたしの証人はあなたたち／わたしが選んだわたしの僕だ、と主は言われる。あなたたちはわたしを知り、信じ／理解するであろう／わたしこそ主、わたしの前に神は造られず／わたしの後にも存在しないことを。わたし、わたしが主である。わたしのほかに救い主はない」（イザヤ４３：１０－１１）。しかしながら、人類全体のように、イスラエルは、自分の召しを繰り返し拒み、冷たい背中を神の選びの愛に向けた。それゆえ、裁きの神の言葉が、彼の僕たちである預言者たちを通して下った、「地上の全部族の中からわたしが選んだのは／お前たちだけだ。それゆえ、わたしはお前たちを／すべての罪のゆえに罰する」（アモス３：２）。人間の心は「偶像工場」（an idle factory）（カルヴァン）であり、その偽りの神々を生み出すために残業している。イスラエルにおける生活も例外でなく、そのすべての悲惨な結果を伴うものであった。選民としての大きな名誉もイスラエルのものであり、他の民よりも厳しく裁かれるという重い負担もあった。イスラエルが選びの祝福を不当にも自分自身に帰し、ずうずうしく行動したとき、神はすべての歴史に対する彼の主権を明らかにし、それでもそれを通して、周囲の国々を動かして、彼の裁きを実行することによって彼の贖いの目的も明らかにしたのである。イスラエルの着実で、急で、ほとんど途切れることのない捕囚への降下の物語は、道徳的および文化的進化の理論を支持する証拠の断片を提供してはいないのである。「・・・進歩の理論の上向きの線はない； ・・・失敗と違反の着実な再発だけがあるのである」（クラウス：Kraus、旧約聖書における神の民）６１頁）。
神の義の十分な影響は、最終的にメシアに依拠する。途中で、最優先の恵みによって和らげられた裁きの行為を通して、アブラハムの召しは、「わたしたちが、『救いの歴史』（salvation history）と呼ぶ神的介入の長い連続における最初のリンク」として立つのである。その鎖の終わりには丘が立っている―「最初はモリヤ、それからゴルゴタである」（“first Moriah then Golgotha”）（S.デ ディートリッッヒ：S. de Dietrich、「展開する目的」６１頁）。神的に断固とした選びの愛のこれらすべての証明において、わたしたちは、「深淵な神秘が、この選ばれた民イスラエルの歴史を支配するのを見るのである。その真只中において、神は、イエス・キリストの到来を前方に指しているそれらの力強いみわざをなされた」（クラウス：Kraus、旧約聖書における神の民」９頁）。というのは、というのは、「信仰なきイスラエルがその任務に失敗したとき、神は、御自身に対して常に真実であるが、すべてのイスラエルを御自分自身の人格において受肉化させ（incarnating all Israel in his own person）、天国、地獄、そしてすべての人類を攻撃し、勝利者を出現させるお方を起こすのである（S.デ ディートリッッヒ：S. de Dietrich、「展開する目的」５７頁）。こうして、旧約聖書を誹謗する者たちと対照的に、改革派神学は、イスラエルとの神の道の積極的で、持続する局面、その旧約聖書の形態における「良き知らせ」（the good news）を強調するのである。それは、繰り返される否定的な要素、イスラエルの抵抗に対する神の裁きの表現、神の愛を選択することを遅らせるが、しかし、確固とした神の選びの愛を決定的には妨害することができない障害と見なすのである。選びは、イスラエルの神の聖なるねたみである堅固な確かさであり、選びは、イスラエルの神の聖なる嫉妬が、彼の贖いの目的が「時満ちて」（in “the fullness of time”）達成されるまで、必ず広く行き渡るのである。
Ⅲ．契約の歴史
この契約の歴史は、究極的にはキリストにおいて中心的であり、その出発点を、その造り主が「極めて良かった」（“very good”）と宣言された創造の終わったみわざに持つ。契約は、すべての聖書的宗教のまさに基礎であり、また枠組みである。契約的宗教は、すべての人間の関係性とことごとくの召しを下支えする根本的な構造である。それは、人生におけるわずかの高度な「霊的な」瞬間（a few spiritual highly moments）に限定されない―契約の子供の誕生、契約のしるしと証印、契約的訓練、礼拝における契約共同体に限定されない。それは、ことごとくの地上の制度―結婚、学習、労働、社会奉仕、学問、芸術、政治さえも含む。わたしたちが、アダムにおいてわたしたちの召しを裏切ったときでさえも、神は、契約を捨てなかった。代わりに、彼はそれを生かし続けるために恵みに介入し、まじわりの絆を復活させるために救いの歴史の長い道のりに着手した。契約の歴史は、終わりのない物語なのである。それは、イスラエルとの神の道を扱うだけでなく、今日、そして将来へのクリスチャン共同体のそれをも扱う。その計画された流れは、一連の更新運動によって強調される―新しい契約を繰り返して立てるのではない。なぜなら、神が永遠に真実であり続ける唯一つの契約があり、契約は再制定されるのである。というのは、神が永遠に真実である契約があるからであり、しかし、契約を再び制定するからである（covenant reenactment）。わたしたちは、ノア、アブラハム、モーセ、ダビデのような「代表的な仲介者たち（representative mediation）における契約更改の歴史おいての展開する局面を証言する。神の契約維持の課題におけるこの前進の推進力は、エレミヤによって明らかに表明されている。「見よ、わたしがイスラエルの家、ユダの家と新しい契約を結ぶ日が来る、と主は言われる。この契約は、かつてわたしが彼らの先祖の手を取ってエジプトの地から導き出したときに結んだものではない。わたしが彼らの主人であったにもかかわらず、彼らはこの契約を破った、と主は言われる。しかし、来るべき日に、わたしがイスラエルの家と結ぶ契約はこれである、と主は言われる。すなわち、わたしの律法を彼らの胸の中に授け、彼らの心にそれを記す。わたしは彼らの神となり、彼らはわたしの民となる」（３１：３１－３３）。これらの約束は、メシアにおいて維持された。「わたしの血で立てられる新しい契約」（コリント一１１：２５）。「それは、契約の保証人である神だけである。彼の誉れが誓約されている。そして、アブラハムの子孫たちは、契約を破ったが、神御自身は、イエス・キリストにおいて到来し、また、義務を履行しないパートナーの代わりに御自身を献げ、また、彼の不信仰の価を支払うのである」（S.デ ディートリッッヒ：S. de Dietrich、「展開する目的」５６頁）。
契約を結ぶことは、契約に署名して封印するために、今日、公証人に行くのと同じように、旧約聖書の時代には一般的な慣習であった。それは、特定の権利と義務を持ち、両者の間の拘束力のある合意が含まれていた。とはいえ、御自分の民との神の契約においては、驚くほどユニークな特徴がある。聖書における契約の更新は、二つの同等の責任ある当事者の相互の同意によって整えれた五分五分の取引ではない。事実、二つの当事者はまさに等しくない―一方は、誤りなく忠実なお方であり、他は一貫して不忠実である。神は主導権を握り、決してそれを放棄しない。彼は、啓示者として来るし、また、彼の民は、応答者として引き込まれるのである。上級パートナー（the “Senior Partner”）として、彼は、条件を自分自身に対して、また、彼の下級パートナー（the“ junior partner”）に対して設定する。それゆえ、その起源において、契約は一方的である。イスラエルと教会の両方が、まず第一に「主を待つように」（to wait upon the Lord）召されている。しかし、契約の作成と維持の反対側もまた現実である。わたしたちは、「主と共に歩む」（“walk with the Lord”）と呼ばれる。それゆえ、契約は、とてつもない重要性がある。というのは、「契約が無ければ、宗教もないし、人間と神とのまじわりもないし、愛と忠実さのやりとりもない。契約がなければ、人間は、神の御手にある手段にすぎない。神が人間を創造したとき、手段以上のものを心に持っておられた：彼は、御自分に応答できる被造物を創造した。もし、人間が、応答できる場合のみ、彼は、契約におけるパートナーとしての立場を取ることができるであろう。契約が無ければ、神は、要求のみを求めるであろうし、また、人間は義務だけを持つであろう。しかし、神が、人間に、約束を与えるや否や、人間もまた、神に対して、すなわち、約束する神を保持するという主張を持ったのである・・・約束が一度与えられると、わたしたちは、契約を語ることができるというのは、契約は、結局、その中において要求と義務が詳しく説明されている二つの当事者の間の合意だからである」（デ グラーフ：De Graaf、「約束と救出」第１巻 ３６頁）。
聖書的な契約は、時間と空間の境界を知らない神と神の民の間の生涯にわたる独占的な関係を包含する。それは、「恋敵同士」（“rival lovers”）や分割した忠誠を我慢することができない。したがって、バアル（Baal）、そして異教の豊穣儀礼、そして諸国民の偶像、彼らの自然の神々、自救宗教（self-help religions）、そしてマモン（Mammon）から離れよ！契約の作成者であり保持者である神は、夫が妻に、父が子供に、主人が僕に、主人がすべての仕え人に対する聖なる嫉妬をもって、彼の民を配慮する。約束の地そのものは、彼の民の間における神の臨在を表す神聖な居住地として仕えた。さらに、イスラエルの巡礼において、割礼は、契約の共同体へ入る礼典的なしるしとして仕え、また、その永続する祝福は、過越祭の礼典において証印された。すべてこれらの多様な関係において、神は、ヘブライ語で「存在する」（to be）に根差すヤーウェ（Yahweh）という彼の位格的な契約名によって、継続的に御自身を御自分の民に啓示した。これは、「抽象的な存在」（“abstract being”）として理解されるべきものではなく、「誰かのためにそこにいる存在」（“being there for someone”）、「彼の民との関係にある存在」（“being in relation to his people”）として理解されるべきである。彼は、かつていまし、今いまし、将来もいますところの神なのである。「では、これらのことについて何と言ったらよいだろうか。もし神がわたしたちの味方であるならば、だれがわたしたちに敵対できますか」（ローマ８：３１）。彼は、個別の孤立した個人としてでなく、すべてのメンバーが全体として体の生活の中で共有する信仰の共同体として、わたしたちとの契約を守り、また、わたしたちのために契約を守るのである。
神の民の間の契約のまじわりは、実際、人生のユニークな方法である。とはいえ、旧約聖書において物語られている契約の更新は、特にイスラエルの歴史の初期の段階に戻るそれらは、周囲の国々の宗主国条約との非常に著しい構造的な並行関係を反映している。このこととは、出エジプト１９章から２４章の契約の規約において、また、申命記における契約の更新において明白である。イスラエルとの神の契約関係は、その当時、支配者と臣下の間で広く行われていた協定のある側面と形式式に似た条件で描かれている。内容において、イスラエルとの神の契約の方法は、他の国民との神の方法とは、著しく異なる。とはいえ、それは、それらの相互作用的な歴史のギブアンドテイクの中で起こる。メレデス・クライン（Meredith Kline）は、これらの類似について次のコメントを提供している。「近東の家臣条約（The Near Eastern vassal treaties）は・・・法の契約、家臣の王と家臣の民に彼の権威を課す大王を宣言するものである。通常は、それらは、家臣の誓約によって批准される・・・誓約に入ることは、家臣が、祝福と呪いの契約の双方の裁可の下に入ることを意味する。大王の主性は、保護か滅びの形態において行使される・・・今や、注目すべき場合として、イスラエルの主がそれらの家臣条約のパターンに応じて彼の民との契約関係を説明することを望んだので、それらが一種の関係であったと示された場合の「契約」（“covenant”）以外のいかなる結論も保証されないのである。 それらがモデルとされた家臣の契約（the vassal covenants）もそうだったのである。すなわち、神と人間の取引における契約（“covenant”）は、法の契約を表しており、したがって、その笏を祝福または呪いで伸ばすことによって、契約の条件を満足させる条件を表現していたのである」（「同意された誓約によって」２１頁‐２２頁）。
クラインは言う。「申命記は・・・古代の宗主国条約の構造を、それらの古典的なパターンの統一性と完全性において示していることは、議論の余地がない・・・注目に値するのは、神が彼の民に対する彼自身の贖いの統治の定義と管理のために、この人間の王国の法的手段を利用した詳細な範囲である（「大王の条約」４１頁‐４２頁）。
恵みと裁きの混ざり合いは、まさにイスラエルにおける契約の歴史をしるしづけるものである。この方法において、イスラエルは、世界への神の方法の範例なのである。その国際関係は最高の状態で、求心効果（a centripedal effect）によって支配されていたのである。わたしたちのところに来なさい。主が私たちの前でなされたことをお見せしよう。しかし、特定救済主義の原則に沿ってである。着実な、しかし、神の贖罪的な関心においては、不均一な絞り込みプロセスが機能していて、その結果、イスラエルにおいても、メシア的希望は忠実な残りの者においてのみであったのである。最終的には、それは、パウロが言うように多くの「子孫たち」（offsprings）でなく、唯一人の「子孫」（the single Offspring）のキリスト・イエスに来たのである（ガラテヤ３：１６）。イスラエルにおける契約の歴史の何世紀にもわたった集中は、それゆえ、世に対す最終的な言葉なのである。世に対する神の最終的な言葉は、キリストである。契約の歴史の目標は、それゆえ、普遍主義（universalism）である。旧約聖書は、散発的にだけであるが、すでに普遍的な視野に向かって幾つかの大発見を提供する―ラハブ、ルツ、ニネべの人々におけるように。イザヤも、この方向におい指している：「わたしは彼らを聖なるわたしの山に導き／わたしの祈りの家の喜びの祝いに／連なることを許す。彼らが焼き尽くす献げ物といけにえをささげるなら／わたしの祭壇で、わたしはそれを受け入れる。わたしの家は、すべての民の祈りの家と呼ばれる」（５６：７）。ヤーウェの受難の僕に関する彼の預言において、「こう言われる。わたしはあなたを僕として／ヤコブの諸部族を立ち上がらせ／イスラエルの残りの者を連れ帰らせる。だがそれにもまして／わたしはあなたを国々の光とし／わたしの救いを地の果てまで、もたらす者とする」（４９：６）。それゆえ、旧約聖書の特定救済主義は、「永久的なものではなく、その目的に仕えた後は消え去るのである・・・というのは、キリストが御自分の犠牲をもたらしたとき、アブラハムの祝福は諸国民に流れ出したのである―遠くにいる人たちが近くにもたらされたのである」（ルイス・ベルコフ「組織神学」３００頁）。契約のこの歴史のこの開かれた約束の実現において、わたしたちの主の言葉は、今や、わたしたちの命令なのである：「だから、あなたがたは行って、すべての民をわたしの弟子にしなさい。彼らに父と子と聖霊の名によって洗礼を授け」（マタイ２８：１９）。契約の良き知らせは、今や、外に出ていくのであり、遠心力である：エルサレムから、ユダヤとサマリヤを経て、地の果てまで行くのである（使徒言行録１：１８）。全世界は、わたしたちの玄関先とその先で、今や、わたしたちの教区なのである。まだ、ことごとくの時代において、契約の条件は同じなのである：「わたしはあなたの神となる。あなたはわたしの民となる」（“I will be your God－you shall be my people”）。予想される応答は、よく知られた讃美歌の言葉に表わされている：「信頼し、従え、他の途はない・・・」。
Ⅱ．４．旧約聖書と新約聖書：「隠され・・・明らかにされている」
イスラエルと旧約聖書、民と経典は、救いの歴史を通し、手に手を取って行く。しかし、それは、容易な快適な関係ではない。一方において、これらの書物は、神の昔の民の遺産と定めに深く埋め込まれ、また、そこから直接生じる。同時に、彼らを超え、また、彼らに反対する言葉(a Word)として、それは、それによってイスラエルが測られ、それは、イスラエルが重要視され、また、十分でないと考えられる尺度なのである。旧約聖書は、当時、そこでは、ここで今と同様に、記述的にかつ規範的に語るのである。しかし、それは経典的でもあり、どの世代においても、信仰と生活の規範である。それをイスラエルの歴史についての記述的説明として読んで、わたしたちは、彼ら自身のまさに存在を神の選びの愛と救出の恵み深い行為を負っているが、しかし、最初から最後まで契約違反と約不履行の罪を担っている民の点検された経歴が残されているのである。それにもかかわらず、そのすべての紆余曲折を通して、旧約聖書の書物も、十分な権威をもって規範的に語る。それらの開示されている律法、預言、知恵文学において、それらは、それによって神が継続的に彼の民を裁き、彼らを悔い改めに招き、生活の更新を促し、救いの希望を保持し、メシア的な期待に生き続ける規範であり、また基準なのである。わたしたちは、したがって、それがイスラエルで（in Israel）に起こっていること（ほとんど途切れることのない不誠実さ）とイスラエルを通して(through Israel)起こっていること（神の契約への忠実さ）を区別し、来るべき御国の到来のプログラムを前進させなければならない。イスラエルにおいて、わたしたちは、わたしたちと同じように、契約の呼びかけに応じることを望まず、従うことができない人々に会う。しかしながら、将来が、来るべきメシアで成就することを約束するという神の最優先の約束にかかっている。新約聖書は、過去のこれらの壊れた部分を二重の焦点でまとめる：イスラエルの無駄な試みは世界で独自の道を切り開き、その価値のない、しかし切実に必要とされている救出に対する高まる圧力は、別の「新しい始まり」（“new beginning”）、キリスト・イエスにおける神のクライマックスで決定的な主導権をさらに要求したのである。
明らかに、そのとき、福音のメッセージについてのわたしたちの理解は、「古い」（“older”）契約と「新しい」（“newer”）契約、唯一つの経典の２つの部分、イスラエルと教会についての見解と共に立も倒れもする。わたしたちが、これらの結びつきをゆるめる程度において、わたしたちは、キリスト教信仰と生活を深刻にごまかすのである。旧約聖書は、聖書の大部分を占めているだけでなく、わたしたちは、わたしたち自身の傷のためだけに、それを無視するのである（we neglect only to our own hurt）。しかし、もっと重要なことは、旧約聖書の下層土から切り離された新約聖書は、わたしたちの手の中ですぐに枯れる、その根から切り離された切り花のようなものである。というのは、その非常に家庭的な言語とその概念の多くは、ヘブライ語から借りている。もし、わたしたちが、これらのことを覚えるならば、わたしたちは、ギリシャ・ローマ文化と哲学的思考において、新約聖書の中心的な理念（ロゴス、メタノイア、身体と魂など）（logos,metanoia,body and soul）の基本的な意味を探求するという報いのない問題で労するのである。旧約聖書の水準点は、新約聖書に消えることなく刻みつけられたままである。イエス御自身が、単独の任務を遂行する孤立した人ではない。キリスト、「油注がれた者」（the anointed One）として、彼は、メシアの受肉、父祖たちの油そそがれた希望である（anointed hope of the fathers）。過去からの贖いの歴史全体が彼において頂点に達するのである。彼の「共同体的人格」（in his corporate personality）において、彼は、新旧のすべてのイスラエル（all Israel,old and new）を代表している。こうして福音書記者は、ホセア１１：１、「まだ幼かったイスラエルをわたしは愛した。エジプトから彼を呼び出し、わが子とした」に訴え、それは、イスラエルの出エジプトに言及し、それをイエスに当てはめる（マタイ２：１５）。キリストの復活と御霊の注ぎの光において、パウロは、教会は、使徒たちの基礎の上に建てられているのではなく、預言者の基礎の上にも建てられていることを宣言する（エフェソ２：２０）。
キリスト教信仰生活に対する旧約聖書におけるイスラエルへの神の道の根本的重要性を過大評価することは、ほとんど不可能である―おそらくA.A.ファン ルーラー（A.A.Van Ruler）の非常に興味深い見解を扱う場合を除いて。彼の神学においては、経典の重心は、新約聖書から旧約聖書に大きく移行する。本質的に、旧約聖書が真の聖書（the real Bible）と主張する。２つの聖書の間の多くの魅力的な相関関係についての長い説明を締めくくって、ファン ルーラーは問う。「もし、唯一の経典があるならば、新約聖書は、旧約聖書に単に取り上げられて、旧約聖書に統合されたのか」と。すなわち、「旧約聖書のみが経典であり、そして、新約聖書は説明用語集（an explanatory glossary）として末尾に追加さたという意味で、唯一の経典があるのだろうか」(「キリスト教会と旧約聖書」９４頁)。宗教と政治（Religie en Politiek）において、彼は、これらの疑問に肯定的な回答を提供している。彼は、そこで、次の命題を弁護している。「新約聖書は、言わば、旧約聖書から残されたいくつかの奇妙な概念をさらに明確にする付録にすぎない」（１２３頁）。さらにより強く言えば、新約聖書は、「世における神の唯一の真の言葉としての旧約聖書の決定的な布告である」（１４２頁）。新約聖書は、旧約聖書に何の付加的な意味を与えていない。それは、むしろ、廃棄されるどころか、旧約聖書が完成したことを示している。こうして、新約聖書は、「本の後ろの索引（an index）のようであり、旧約聖書が、今や、完成していることを告知している・・・非常にユニークな方法で、新約聖書は、経典を閉じる、それは、ちょうど、主御自身がノアの後ろで箱舟を閉ざされたようにである」（１４２頁）。それでは、わたしたちは、イエス・キリストについて、何を言おうか。彼は、「旧約聖書に多かれ少なかれ散らされている神の約束の複雑さと要約を」表明しているので、その結果、それらのいくつかをより簡単に、また、より簡単に処理することができなくなった」（１４３頁）。ここでは、新約聖書の価値下落は意図されておらず、焦点が非常に大きく移行しているだけである。しかし、ファン ルーラーの見解は、「閉じられた経典」（a “closed canon”）の疑問の直接的な関係がある。聖書の経典は、黙示録よりもマラキで本質的に閉じられるのだろうか。救いのメッセージの核は、すでに紀元前４世紀ごろによって宣言されたのであろうか。それでは、キリストの到来は、期待外れ（an anticlimax）なのか。福音書は、わたしたちに「失望感」（a letdown feeling）を残すのか。
実践的な契約期分割主義への解毒剤として、ファン ルーラーの見解は、非常に多くの必要とされる修正に仕える。というのは、旧約聖書を退かせることは、聖書の重心における彼の劇的な移行よりも、今日の教会へのより大きな脅かしだからである。しかし、より善き方法がある：約束と成就（promise and fulfillment）として、２つの聖書の有機的統一性である―古いことわざが言っているように、旧約聖書に隠されていること（latent:concealed）は、新約聖書において明らかにされている(patent:fully revealed)。このことは、事柄の心により近い。旧約聖書の無視を助長するどころか、この見解は、新約聖書の正しい理解のための不可欠性を強調する。ヘンドリクス・ベルコフの次のコメントは、それゆえ、適切である。「改革派神学は、新約聖書の正しい理解のため、わたしたちは、旧約聖書の経験と概念にまったく依存することを特に強調することに関心があるのである」（「キリスト教信仰」２２４頁‐２２５頁）。
Ⅱ．５．旧約聖書：契約の書
イスラエルの歴史は、継続している歴史の一部である。その書物、旧約聖書は、聖書全体を覆う契約の書において、第一部（Part One）としてわたしたちに来、そして、新約聖書は第２部(Part Two)として来る。それらは、一方において、契約の歴史の産物である。同時に、それらは、その歴史を形成する。キリスト教の観点から、おそらく特にそうである。旧約聖書は、時代遅れという意味では決して古くはない。それは、むしろ、新約聖書は新しい局面（the “newer phase”）であるところの啓示の永遠的に適切な体系の「より古い」局面（the“ older” phase）として留まる。啓示のこの終末論的に方法づけられた動向内において、イスラエルは、原初の啓示と、今や堕落し、そして、更新される創造についてのビジョンを持った福音との間で、決定的な点を占める。
一般的な習慣は、今日、旧約聖書の経典的書物を、４つの主な区分：律法、歴史、諸書（writings）、預言者に分けることに、わたしたちを導く。ヘブライ的伝統は、しかしながら、この事柄を異なって見る。それは、３つの主な区分律法、預言者、諸書（the writings）に識別する（ルカ２４：４４）。わたしたちが歴史的と呼ぶ傾向のある書物を、ヘブライ語聖書は、「初期の預者」（the“ earlier prophets”）と見なして、それによって、彼らが「預言者的歴史」（“prophetic history”）と宣言することを認めている。すなわち、それらは、神の民との方法で歴史的な出来事を記録する以上のことをする。より重要なことに、それらは、メッセージを運ぶのである。それらは、契約の歴史における浮き沈みについての実況解説なのである。わたしたちが、通常、「大預言者」と「小預言者」（major and minor prophets）と呼ぶ書物は、ヘブライ語聖書の経典的な順序において、「後期預言者」として見なされる。両方の聖書を含む契約の歴史の唯一つの展開するドラマにおけるこの「より古い」局面(this older phase)を、今や、簡潔に扱うことにおいて、わたしたちは、ヘブライ語聖書の順序に従う。というのは、ヘンドリクス・ベルコフも言っているように、「イスラエルの真の契約の歴史は、律法から預言者に走る」（参照 ルカ２４：２７）からである。しかし、この歴史に参加するすべての人は、これらの著作でも常に認識し、そして、あちこちで、彼自身の質問と経験を認識するであろう」（「キリスト教信仰」２３５頁）。
Ⅱ．５．律法
「トーラー」（Torah）としての律法は、一般的に、モーセの最初の５巻をカバーするものと見なされる。それは、付加された報いと刑罰をもった規則と規制の厳しい法典としては、最善に理解されないが、しかし、契約的生活のための手段的な指針として理解される。中心的な重要性は、律法は、その多様な、しかし、一貫した統一性において、生活に語りかける事実である。それは人間関係の全範囲に触れている。おそらく、適切な祝福と裁きを伴う、契約の従順への緊急の呼びかけの包括的な範囲は、安息年とヨベルの神的備え以上には、どこにも挑戦的に表現されていないであろう（レビ記２５章）―イスラエルは、これらの特別な休息と更新の時期を順守するために、勇気を奮い立たせることができたのである。
わたしたちの近代の世界の考え方と実践は、故意にかつ自己意識的に、私的な宗教性と公的な事柄の２つの区分に分割する傾向がある。しかしながら、旧約聖書においては、「世俗的な」（“secular”）と「神聖な」(“sacred”)の間の区別はない：というのは、いわゆる世俗的な存在においても、民はなおヤーウェの契約の民なのである」（オットー・ヴェーバー「聖書の根本計画」４８頁）。イスラエルは、神政政治的な生活スタイルである。すなわち、統治のその形態が何であれ、神の言葉による神の慈悲深く主権的な支配が、約束された地において彼の民の全生活のための試金石として仕えるものであった。ディートリッヒ（Dietrich）によるこの点についての強調に注目せよ。「律法は、生活のすべてが、神の命令の下に置かれなければならない。というのは、それは、人間が神と隣人に関係しているだけでなく、宗教的かつ市民的生活のことごとくの局面に関係しているからである」。ディートリッヒのコメントは、それを示唆するが、神の世界におけるわたしたちの生活に対する神の言葉における初期の二元論はないのである。というのは、ディートリッヒは、さらに言う。「近代世界は、「神聖な」(“sacred”)と「世俗的な」（“secular”）を分離する傾向があるが、このことは、聖書の啓示においては起こらない。市民的律法と宗教的律法は分離され得ない。というのは、それらは、両方とも、神の意志に起源し、それらの目的は神の栄光を現わすことだからである。地は主のものであり、収穫の初穂と群れの初子は主に献げられるべきだからである。これはまた、各人が隣人の雄牛とろばを大切に扱い、すべての人が公正に扱われるようにしなければならない理由でもある。それは、神が、その歴史における決定的な点において、救いの神（the Savior God）として御自身を啓示し、イスラエルは、主の過越祭を常に祝わなければならないからである。それは、イスラエルが罪深い民として留まり、それは、その罪のための宥めの犠牲を献げなければならないからである。このときから、律法は、神の民の全生活（the whole life）を真にカバーするからである。それは、イスラエルの憲章であり、人間の権利の権利章典（a bill of human rights）ではなく、人間に対する神の要求なのである。人間の法と自由の真の守護者は神だからである。法律は、人々と諸国家が彼ら自身の破壊をもたらすことなしには、無視することができない命令を表しているのである」（「神の展開する計画」７５頁、８０頁）。
「しばしば神政政治」と呼ばれる、「より古い」契約（the ” older covenant”）における神の統治は、メシアの堂々とした主張において、今や贖罪的に今日化される。カナンの地は、来るべき神の国の暫定的な範例であった。地理的に限定されたリアリテーとして、昔の歴史のキャンバスにスケッチされた。その御国は、今、イエス・キリストにおける現在の普遍的なリアリテーなのである。すべての権威は、天においても地においても、彼に属する（マタイ１８：１８）。彼は、律法の「終わり」（the End）であるから、わたしたちは、「あらゆる思惑をとりこにしてキリストに従わせ」（コリント二１０：５）るように導かれている。神の律法は、今、キリストの律法である。彼において、わたしたちは、その永続的な意味を見い出す。彼が、「より古い」聖書と「よい新しい」聖書（the “older” and “newer” Testaments）の両方にとっての解釈の原理なのである。
Ⅱ．５．２．預言者
律法は、契約生活の活力ある脈動である。ヘブライ語経典において、わたしたちは、初期の預言者と後期の預言者に出会う。それらは、これらの手段的な指針が、神の選ばれた民の間において、実際にどのようであったかを表す。彼らの日々の地平を詳し調べて、これらの「先見者たち」（these seers）は、将来を指し示すだけでなく、そうすることにおいて、過去を用いて、現在に影響を与える。彼らの預言において、わたしたちは、「歴史における契約に関して起こったところの物語を、裁きと祝福の物語を、背教と告白の、人間の不忠実さと信仰深さの、神の側からの新しい約束を聞くのである」（ヘンドリクス・ベルコフ「キリスト教信仰」２２９頁）。預言者たちは、「神的な代弁者」（divine mouthpieces）であったし、彼らを「わたしの僕たち」（my servants）と呼ぶ彼らを遣わしたお方（the Sender）のために話すのである。たゆまず（またはほとんどそう-逃亡者の預言者エリヤの落胆を思い出せ、列王上１９：９－１０））彼らは国に蔓延している悪を非難する。彼らは、神の民を、彼らの人格的で、共同体的な生活と彼らの社会的な制度の更新へと召す。彼らは、特に、裁判官たち、解放者たち（deliverers）、祭司たち、王たち、偽りの預言者たちを激しく非難する―契約共同体において「仲保者的役割」（mediatorial roles）を与えられた者たちを激しく非難する。これらの指導者たちは、神と彼の民の間で結びつける者たち、代表者たち、大使たち、介入者たちとして仕えるべきであった。彼らには、多くのものが期待された。それゆえ、彼らの異端は、庶民を誤り導くことにおいて、「シオンの壁のこれらの見張人」（these watchmen on the wall of Zion）の特別な注目を引いたのである。というのは、高い地位にある者たちは、彼らの職務の行使に責任がある―貪欲な土地の常連客と不謹慎な商人を含むのである。特権のある地位も、神の裁きを免れない。これらの神の擁護者（these divine defenders）の告発する指は、恐れや好意なしに、どの方向においても指し示すのである。
これらの最後通牒の背後の動機は、明らかである。イスラエルは、彼らの周囲の悪から根源的な分離において生きることによって、その身元を維持するために召された。そのような緊急の思い出させるものを発することは、神が彼の代表（“delegates”）として育てられた人々の心にかかっている重い負担であったのである。イスラエルは、その遺産を同化および非同化として尊重しなければならない（ディートリッヒ（Dietrich）。最初は、預言者たちは、条件的なメッセージをもたらす：悔い改めよ、さもなくば・・・・次第に、イスラエルが、その契約の誓いを履行しなくなると、預言的言葉は、無条件的なメッセージになる：捕囚の清める火が来たりつつある。神は、彼自身の大切な民の敵となるのである。とはいえ、彼の裁きは、希望を持って和らげられる：わたしは救い出すと主は言われるが、しかし、「わたし自身の名のためにだけである」（for his own name’s sake）。こうして、窓は、メシア的約束に開かれている。繰り返し、預言者はその将来の期待を用いて、そのときの泣く困難に正面から応えるのである。とはいえ、「主の到来する日」（the coming of the Lord）のそのビジョンの意味は、イスラエルの歴史を通して、ぼんやりで曖昧である。「時の満ちること」（in the fulness of time）における明白化を待つのである。
裁きと贖い―これが、預言者たちのメッセージに行き渡る二重の主題である。裁きは、見える事柄である。それは、エルサレムの陥落とその住民の捕囚において痛々しいほど明白である。しかしながら、約束された救いは、信仰の目には明らかである。神を、契約を守るお方(the Keeper)として新たに見るためには、イスラエルは、誤解を招くような信頼を得ているすべてのものを剥奪されなければならなかった。メシア的な希望しか残されていなかったのである。これが、唯一の生き残った希望の光線であった。預言者たちが、他の者たちが見ることに失敗したところのものを見ることができたのは、この光においてであった。神の聖化する恵みの見解において、事柄は更新を必要とするほど良くはない。しかし、同じ恵みによって、事柄は、まったく希望がないほど悪くはなかった。それゆえ、逆説的に、「すべてが楽観的であり、その言葉が『すべてが順調である』であるとき、預言者は破滅の危機に瀕しているのである。しかし、イスラエルが、穴の底にいるとき、荒廃と破滅しかないとき、預言者の孤独な声が、今度はすべての慰めの神を宣言するために新鮮なものとして張り上げられた・・・預言者たちは、他の人々がまだなおその栄光の絶頂にある文明の輝きに目がくらんでいるところの空中で、死の臭いを嗅いだのである。そして、他方において、人生は埋葬され、非難されているように見える。彼は神の秘密の働きを理解し、復活が先にあるという約束を受け取るのである」（ディートリッヒ「神の展開する目的」１１２頁）。
この驚くべき見込みは、「主の苦しみを受ける僕」（the suffering servant of the Lord (イザヤ５３章)において具現される。この神秘的な人物は誰か。預言者たちの一人か。名誉回復されるイスラエルか。先を見据えて、わたしたちは、福音書から、「彼の民の罪を真に担った唯一人の僕がいる。唯一人、義であり、不義なる者たちのために苦しんだ・・・この一人の僕がイエス・キリストであり、神の御子である」（ディートリッヒ「神の展開する目的」１２３頁）。わたしたちの中の彼の霊の臨在によって照らされ、わたしたちは、今、イスラエルの歴史において、教会の最も初期の歴史、実際、わたしたち
自身の生活史をはっきり知ることを学ぶのである。預言者たちの言葉は、わたしたちを身代り的に引き戻すが、しかし、契約における歴史の最も早い局面に抵抗できない磁石的引力をもって引き戻すのである。
Ⅱ．５．３．諸書（The Writings）
わたしたちの聖書の中間にまたがるこれらの書物、ヨブ記、詩編、箴言、コヘレトの言葉、雅歌は、ヘブライ語聖書の経典的構造の第三の部類を構成すし、それらは、今もキリスト教の聖書にある。諸書のこの集まりは、文学的な型の大きな多様性を受け入れている―ドラマ、対話、詩、賢明なことわざ（wise sayings）、教え（instructions）などである。この魅力ある多様性を概要的なかたちにおいて適切に扱うことは不可能である。わたしたちが望むことができる最善のことは、これらの書物を聖書経典内に位置づけて、その展開する契約/王国の歴史への貢献のために慣れることである。「諸書においては、その核は詩編であり、わたしたちは、人の声を聞く。彼は、罪の告白と感謝、疑いと喜び、瞑想と嘆きの中で、神と契約に自分自身を関連づけている」（ヘンドリクス・ベルコフ「キリスト教信仰」２２９頁）。それらは、想像に豊かであり、絵を見るような生き生きとした文章、平行的表現、賢い言葉遊び、直喩、比喩である。これらの詩人たち、思想家たち、歌を書く人たちは、わたしたちが、彼らの最も内側の気分を鋭く感じることを可能にする―ヨブの苦しみに直面した苦い悲しみ、箴言における父親の懸念、コヘレトの神の摂理における神秘についての戸惑い、雅歌の情熱的な忠実さ、これらの書書が、救いの歴史における主流にどのように適合するのかは、しばしば、完全に明確ではない。
しかしながら、詩編をもって、わたしたちはより強固な基盤を築いている。大部分は、少なくともそれらはイスラエルとの神の道と、はるかに密接に関連している。わたしたちは、それらにおいて、彼の民との神の契約関係と彼らの生活における彼の主権的な支配についての深い宗教的反省を聞くのである。契約の従順は命と平和に導き、不従順は死と無益に導く。神の恵み深い支配へ喜んで服従することが、喜びにあふれた僕であることの鍵である：反抗的な精神は自己破壊的である。詩編の記者は、神の律法の強力な擁護者である。叙情的なかたちにおいて、それらは、預言者たちのメッセージを再強化している。彼らは、賜物を与えられた個人たちであるが、とはいえ、彼らは共同体のメンバーとして語っている―彼らの同時代の人々に対して、また、彼らのために語っている。これが、イスラエルが信じ、告白すべきところのものであり、また如何に生きるかであると、彼らは言うのである。真の信心深さへの呼びかけは、激しい経験的な方法で、彼らの心からの熱狂的な緊張で起こるのである。高慢は、究極的な悪徳であり、謙遜は、神を恐れる生活の下支えする徳である。この根本的な選択への応答において、詩編の記者たちは、悔い改め、信頼、不安、感謝の気持ち、正義、愛、不平、喜び、希望など、幅広く表明する。
それでは、わたしたちは、この詩編を旧約聖書内のどこに位置づけるのか。応答性がその基本的特徴である。神の世界におけるわたしたちの共なる生活のための超越的な規範としての律法をもって、また、神の歴史において、これらの要求がどのように実際に機能するのかについての批判的なコメントとしての預言者をもち、詩編においては、わたしたちは、律法と預言者の両方への深い宗教的な反応にさらされているのである。
ルターは、詩編に、聖書の他の部分おける基本的な命題の要約を見ている。彼は、それゆえ、詩編を、「ミニチュアの聖書である・・・一言で言えば」（the Bible in miniature・・・in a nutshell）。１５０の詩編と他の諸書を共にまとめる中心的な統一的なモチーフは、「知恵の初め」（“the beginning of the wisdom”）として「主を恐れること」(”the fear of the Lord”)である（詩編１１１：１０、箴言１：７、９：１０）。心の高度な設定は、尊崇、献身、信頼などを包含する。
詩編において溢れる堅固な敬虔の表現を与えられると、イスラエルの神殿奉仕と彼らの祭の礼拝において、それらが果たした支配的な役割を不思議に思う理由はほとんどないのである。詩篇を礼拝に使用するというこの伝統は、忠実なヘブライ人がシナゴーグの礼拝のために集まるにつれて、後の歴史に受け継がれた。新約時代の贖罪的にアップデート化された文脈内において、詩編も初期のキリスト教共同体の生活において定着した場所を得たのである。この習慣を励まして、パウロは、「キリストの言葉があなたがたの内に豊かに宿るようにしなさい。知恵を尽くして互いに教え、諭し合い、詩編と賛歌と霊的な歌により、感謝して心から神をほめたたえなさい」（コロサイ３：１６）。共に詩編を歌うこの長い伝統は、１６世紀の宗教改革によって、新たな推進力が与された。そのときから、詩編は、多くのキリスト教サークルにおいて、賛美と祈りの書として仕えてきたのである。カール・バルトのコメントを借りれば、「今日、この伝統をなお尊重するそれらの教会は、幸いである」（Blessed are those churches that still honor this tradition today）。
Ⅱ．６．イスラエル、メシア、そして教会
大きく迫っているのは、メシア御自身の主権的な唯一人の人格である（the sovereignly solitary person of the messiah himself）。彼は、イスラエルと同様に、諸国家の、教会の義なる裁き主である。誰が、人の子を十字架につけたのか。ローマの兵士たちか。ユダヤ人の指導者たちか。あるいは、彼らが彼を釘付けにしたとき、わたしたちもいたのか。聖書は、これらの歴史的な要素を超えて、ゴルゴタに集中する神の義と憐みが支配することを指し示している。パウロは、それゆえ、「わたしたちがキリストと一体になってその死の姿にあやかるならば」、その結果、「その復活の姿にもあやかれるでしょう」（ローマ６：５）と言うことに、わたしたちを導く。これが、御霊の働きによってキリストとのわたしたちの同時性の聖書的な神秘（the biblical mystery of our contemporaneity with Christ）なのである。それは人間の罪であり、アダム・エバのすべての息子たちと娘たちの集団的な罪であり、それだけで神の子の死を告げるものであった。
わたしたちの共同体的な罪の深い感覚は、第二ヴァチカン会議の父たちを、「神殺し」（deicide）、「神を殺す人々」（God killers）としてのユダヤ人たちの長年の告発を撤回することに導いたのである。「クリスチャンでない人々」（Non-Christians）についての宣言において、その会議は、いつでもどの源泉からでもユダヤ人たちに対して向けられた反セム主義（Anti-Semitism）についての憎悪、迫害、表明を遺憾と思うのである」。それは、「アブラハムの元株と新しい契約の霊的な絆の結びつきを思い起こさせる」。「キリストの死を押したのは、ユダヤ人群集であるが・・・そのとき生きていたすべてのユダヤ人たちが責められるべきでなく、また今日のユダヤ人たちが責められるべきでもない」（W.H.アボットとＪ．ガラグハー：W.H.Abott and J.Gallagher「第二ヴァチカン会議文書」６６４頁‐６６７頁）。その歴史的判断は正しいが、しかし、この譲歩は、神は単にユダヤ人たちの一部を扱っているのではなく、また異邦人の一部を扱っているのでもなく、彼は、「キリストによって世を御自分と和解させたのである」（コリント二５：１９）。十字架と空の墓は、それによってわたしたちが、イスラエルと教会の集まりとそれらの間の道の分かれの両方を説明しようと求めなければならないその危機として、今や立っているのである。イスラエルは、それゆえ、「そこあそこからその過去が出現し、また現在のユダヤ人・異邦人の共同体が、救いについて生きている神の同じ自由な恵みから派生し、資格のある将来を持っているのである」（オットー・ヴェーバー「教義学の基礎」第２巻 ４８７頁）。
この二重の効果が、旧約聖書時代から新約聖書の時代に来る契約の歴史における連続性と/あるいは不連続性についての鋭く葛藤する見解から生じる。根源的な不連続の理念を保持して、ユダヤ教はそれ自身の道を行くが、他方、キリスト教共同体は、新約聖書の心に合わせて、律法、預言者、諸書との連続性の深い統一性から生きるのである。「あなたがたは知らないものを礼拝しているが、わたしたちは知っているものを礼拝している。救いはユダヤ人から来るからだ」（ヨハネ４：２２）。彼に中心がある救いの力強い行為は、旧約聖書の「聖書にしたがって」（according to the Scriptures）達成されたのである（コリント一１５：３－４）。それは、最近のユダヤ教とキリスト教の対話から生じるユダヤ人たちのために一つ、クリスチャンたちのために一つという「二重の契約」の理念（the idea of dual covenants）ではなく、メシア・イエスの人格とみわざの十分な聖書的な理解に決定的である二つの契約の有機的統一性なのである。というのは、「イエス・キリストの選びは、キリスト教共同体における旧約聖書の権威のための唯一つの理由なのである。それがなければ、それはただの手紙になる（コリント二３：７以下）。それがなければ、旧約聖書は、中心も目的もないであろう。旧約聖書は、イエス・キリストから離れては、それ自身においては、またそれ自身では、妥当性を持たないであろう」（ヴェーバー「教義学に基礎」第２巻 ４８５巻）。
それゆえ、より「古い」契約における創造と契約の具体的なリアリテーから切り離されれば、新約聖書のキリスト教は、抽象的な個人主義、霊魂の救いの純粋に個人的な観念、霊性、敬虔主義、異世界性（otherworldliness）に堕するであろう。
より古いステージとより新しいステージ(“older” and “newer ”stages)の境界線にまたがり、橋渡しをする人物が、洗礼者ヨハネである（ルカ３：１－２２）。唯一つの幻において、彼は、これらの二つの地平を混ぜ合わせ、それらを「わたしより優れた方」（the one who is mightier than I）の焦点を合わせるのである。彼の激しく対決的な説教において、ヨハネは、イスラエルとの神の道をまとめ、また、それを「世の罪を取り除く神の小羊」（“the Lamb of God”）に負わせるのである（ヨハネ１：２９）。ヨハネは、メシアの先駆けであり、すべての人を御自身に引き寄せる彼のために道を備える（ヨハネ１２：３２）。ヨハネの手における彼の洗礼において、イエスは、ユダヤ人と異邦人の両者の不義の罪ととがに満ちた流れに身代りに御自身を飛び込むのである。こうして、彼の移行的な使命において、ヨハネは、預言者たちの最後かつ福音伝道者の最初としとて仕えるのである。
新約聖書の記者たちによるイエスに与えられた名前の広い種類は、ヨハネを通して、彼に誤りなく結びつく：彼は人の子、ダビデの子、真のメルキゼデデク、天からのパン、主の受難の僕、偉大な大祭司―要するに、預言のメシアなのである。そのようなものとして、彼は、「むしろ、イスラエルの家の失われた羊のところへ行きなさい。」（マタイ１０：６）。とはいえ、「 言は、自分の民のところへ来たが、民は受け入れなかった」（ヨハネ１：１１）。反応のこの調子は、ステファナの石打の説教においてクライマックスをも構成する。イエス御自身が、危険な農夫たちのたとえにおいて、また、エルサレムについての嘆きにおいて（マタイ２３：２９－３９）、過去の歴史の承認としてユダヤ人たちによる彼の拒否を説明したのである（マルコ２３：２９－３９）。こうして、旧約聖書は、「続く」（To be continued・・・）で終わり、そして、新約聖書がこの未完の主題を取り上げるのである。
イエスは、その人たちの目がその前方を見る約束に開かれている父祖たちのメシア的遺産から明らかに認められるのである。というのは、彼が、「あなたたちは聖書の中に永遠の命があると考えて、聖書を研究している。ところが、聖書はわたしについて証しをするものだ」と宣言するように（ヨハネ５：３９）。彼の到来において、彼は祝福の盃を取り、それは、長い世紀にわたって次第に満たされてきたが、しかし、決して十分ではなく、そして、それを溢れるほど満たすのである。彼において、ソロモンとヨナよりも偉大な者（ルカ１１：３１－３２）が現れたのである。ヘルマン・リダボス（Herman Ridderbos）の言葉において、次のように言われている。「イエスの誕生は、イスラエルの神聖な歴史に偉大な冠でありかつ結論であり、それを神御自身が指揮したのである・・・というのは、彼は、イスラエルの隠れた根であり、すべてのものがまとめられるお方であり、そのお方に最終的にはすべてが見えるようになるのである。彼は、アブラハムの選びを説明する；彼もアブラハムの子孫であり、彼において世界のすべての国民が祝福される。彼は、ダビデの家の永遠の王であり、そのお方の統治の下に神は、イスラエルと諸国民を祝福するのである。彼は、捕囚の１４代の終わりでもある。何故なら、彼においてのみ、イスラエルは、自分の罪の赦しと滅びからの復活を見い出すことができる」（「イエス・キリストについてのマタイの証言」１９頁‐２０頁）。
メシア的な生き方の拒否は、ユダヤ人の共同体を含めて、わたしたちの西洋の世俗社会の重くかかる暗い雲である。結果として、福音は、今や、基本的に三角形の状況内における具体化を求める：それは、イスラエル、教会、他の宗教の世界に関連している必要がある。この設定において、イスラエルと教会の間の道が分かれたままであることは、特に痛ましい現実である。というのは、このことは、「聖書によらないからである。イスラエルは、教会であり、教会は、イスラエルであり、ユダヤ人たちと異邦人たちから集められている。シオンの山、エルサレム、神殿と祭壇、犠牲と影は、キリストにおいて実現されるのである・・・」（フクセマ：Hoeksema「改革派教義学」８１８頁）。
メシアとして、キリストは、「終わりの日」（the last days）、「契約の歴史の終わりの時代」（the end times of the covenant history）を導き入れた。彼において、御国は、原罪のリアリテーとして突き破りつつある。イザヤは、「追い散らされたイスラエルを集める方／主なる神は言われる／既に集められた者に、更に加えて集めよう、と」（５６：８）と予告していた。その預言は、詩編８７編の広く包含する言葉と共に、真実になりつつあった。新しい枝が、古いぶどうの木に接ぎ木されたのである。しかしながら、全体としてのイスラエルは、新しい時代（this “new age”）のこの動向のお祝いに参加することを拒否されたのである（マタイ１１：１６－１９）。それにもかわわらず、「神の約束は、その実現に達したのである。イスラエルによって引き起こされた拒絶にもかかわらず、そのまさに拒絶を通して、そして最終的には、その拒絶を超えて、その実現を達成するのである」（ヴェーバー「教義学の基礎」第２巻 ４８３頁）。
それゆえ、最初の世代の弟子たちは、彼らの旧約聖書において、「３つの基本的な要素」（three basic element）を発見するのに忙しかったのである:神の忠実さ、人間の不忠実さ、いつか前者が後者に勝利するであろうとの期待」である（ヘンドリクス・ベルコフ「キリスト教信仰」３５８頁）。長い間、その日は、今や、夜が明けつつあった。メシア・イエスは、党派的な人々の統一者として現れた。しかし、彼の出現は、大きな分離をも引き起こした。イスラエルと教会は、分かれた道で出発した。教会は、この重要な岐路に立つ彼らの混雑したクライマックスにやって来た神の力強い救いの行為が、世界の歴史における決定的な転回点をしるしづけることを告白するのである。原則として、すべてのことは、「すでに」(“already”)新しいのであり、彼らの「いまだなお」（“not yet”）の次元は、まだ悲惨なほど現実なのである。神がキリスト・イエスにおいて間違いなく語り、そして活動したかどうかは―イスラエルと教会を分離する深い割れ目を造るのが、この疑問への葛藤する答えなのである。歴史を通してイスラエルの選んだルートは、何も真に変わっていないかのように、「いまだない」（not yet）という唯一のしるしを担う道標と結びついている。この道の分かれは、教会自身の忘れられない現実を思い出させる。ヘンドリクス・べルコフは、この分離の苦しみについて、次のようにコメントしている。「イスラエルの大多数が、預言的なビジョンから撤退したので、意図に反して、イエスの出現は、２つの形式と神の民の２つの方法につながったのである。最初の形態は、イスラエルであるが、あたかも、イエス・キリストがこの点において、何の変化ももたらさなかったかのように、古い契約的な弁証法を続け、また、その解決を求める。第２の形態は、教会であるが、希望の民としてのイスラエルの「残りの民」（a remnant）が決して欠けてはいなかったが、新しい契約、救いの成就されたみわざから生き、世界の国々至るところで御霊の働きを経験する。一つの道にある者たちは、他の途にある者たちを理解することはできない；また逆もまた同様である。同じ神への信仰からそのように２つの異なった方向に動くことができるということは、最初にイスラエルが教会に立ち向かったかが、その後、何世紀にもわたって、世界中のどこでも、離散のユダヤ人に向かって、支配的な教会のさらに多くが、大きな苦しみと敵意を引き起こしたのである」（「キリスト教信仰」２６１頁）。
これは、契約の歴史における面倒な裂け目である。それは、パウロに、ローマ９章から１１章において、彼の最も内面の憧れを解放するように導く。彼は、この重い一節において、「イスラエルの失敗を、かつて族長とイスラエル国民を、異教から解放したのと同じ不可侵で主権的な聖定にまで還元した」。これらの章のさらなる分析を試みることなく、次の要約の叙述で十分としよう。「１．この聖定は、恣意的なものではない；それは、イスラエルが神の救いの道を喜んで歩もうとしなかったことに即応する。２．この聖定ゆえに、異邦人たちは、夜明けを迎えた。３．イスラエルは、神によって、完全に捨てられたのではない；預言者たちがこの危機を通して、メシア時代に入るのを見た「残りの民」（the remnant）は、ユダヤ・キリスト教会で現実のものとなったのである。パウロは、メシアの出現、死、復活の大きな危機を心に抱いていた。この危機を通して生き、そして、イエスをメシアと認める残りの民が、真のイスラエルなのである」（ヘンドリクス・ベルコフ「歴史の意味」１４１頁）。
疎遠の痛ましい話が展開するにつれ、イスラエルの生む罪は、パウロが「盲目」（blindness）（コリント二３：１４）と呼んでいるものであり、教会の生む罪は霊的な思い上がり（ローマ１１：２０）なのである。福音は、旧約聖書の定めの実現された達成として、「キリストの体」（the body of Christ）の中で、「自分自身を失い、自分自身を見い出し、超越し、それ自体の独自を実現するユダヤ教への挑戦を続けるのである」（リチャード・デ リッダー：Richard De Ridder「イスラエルに対するわたしの願い」１１頁）。ユダヤ人たちがいない世界を持つことが、神のより大きな栄光になるかどうかという
ラビ アブラハム ヘッシェル（Rabbi Abraham Heschel）の疑問に答えて、キリスト教の観点から、デ リッダーは、固い否定で答える。「わたしたちはそのように応答する。何故なら、最初に、神は、イスラエルの民で終わりではない。第２に、神の民は完成を見つけるであろう。そして第３に、イスラエルのまさに存在が、教会と世界の両方に大きな声で語るからである。わたしたちは、キリスト教が、イスラエル内の非常に深い危機の結果として生じたことを忘れはしない。この危機は、イスラエルの選びと同様に、契約の普遍化に関わる；それは、律法と義(義認)の、期待と実現の危機である」（「イスラエルに対するわたしの願い」１０８頁）。
それでは、わたしたちは、わたしたちのユダヤ人の隣人たちに、どのようにアプローチしたらよいのだろうか。デ リッダーは、次の指針を提供する。「広範なキリスト教の意見に反して、教会は、ユダヤ人たちが、なおも旧約聖書の契約と約束のイスラエルであること、また神は、イスラエ内の『約束のすべての子ら』（all“ the children of promise”）が救われるまで、イスラエルについて救いの目的を持ち続けていることを認めなければならない・・・教会は、今がイスラエルの救いの日であることを認めなければならない；すなわち、『すベてのイスラエル』（all Israel）は、救いの歴史の新しい時代を待ちはしない・・・教会は、・・・異邦人たちと同様にユダ人たちも、神の贖いのみわざへの唯一の救済的な応答として、イエス・キリストにおける信仰への福音によって召されていることを認めなければならない・・・ユダヤ人たちへの教会の使命の動機と姿勢の両方が、救いの歴史における神の約束と契約ゆえに彼らのものである福音に関して、特権についてのイスラエルの優先性を考慮しなければならない・・・ユダヤ人たちに対する教会の姿勢は、神がイスラエルを下っていることに一致しなければならない」（「神は御自分の民を拒否していない」８１頁‐８２頁）。
解説
第４部：第２章「イスラエルとの神の道」の全訳が終ったので、５点の解説をする。まず第１点は、本章の「イスラエルとの神の道」の表題そのものの意味についてであるが、スパイクマンは「第４部」全体の表題を「The Way of Salvation、すなわち、「救いの道」と名づけ、救いの道は、神から罪人へのOne Way、一方通行であることを述べた。そこで、本章の「イスラエルへの神の道」も、イスラエルとの関係において、神からのイスラエルの救いの道は、どのようのものかを論じる。すなわち、スパイクマンは、第３部で、わたしたち人間は、人類の代表あるいは契約の代表・頭のアダムにおいて、アダムと共に罪を犯したので、原罪（罪責と腐敗）がわたしたちに転嫁され、わたしたちも全的堕落の罪人に堕落したことを述べた。そこで、今度は、キリストにより罪からの救いの神の計画が歴史的に展開し始めることを述べる。しかし、キリストによる救いは、直ちに実現するのではなく、神に選ばれたイスラエルの長い旧約歴史において、来るべきキリストが予告・預言され、その実現・成就として、キリストが出現して新約時代となり、キリストが預言者・祭司。王として、救いの道を開く。そこで、キリストが出現するために用いられたイスラエルの民について、その局面を述べるのである。これが、スパイクマンの意図である。
第２点は、選ばれた民としてのイスラエルの歴史は、紀元前２千年頃、アブラハムの召命に始まる（創世記１２章）が、しかし、聖書は、そのアブラハムから狭く記されて始まるのではなく、もっと広く普遍的に世界全体の歴史がイスラエルに流れてくる仕方で書かれている。すなわち、イスラエルの前歴史としての普遍的な世界史が描かれていることを、スパイクマンは語る。それが、創世記１章から１１章になるが、著者は、神がアブラハムに救いを約束したことを、創世記１２章以下で記すが、しかし、救いの約束の始まりは、アブラハムではなく、失われた楽園におおいて、アダムとエバの堕落直後に、すでに「母なる福音」、「原福音」として与えられていて、救いは、アダムとエバの子孫に広く与えられることが語られている、そして、創世記の著者は、アダムからノアに人類が続いたことを系図で描き、さらに、ノアの洪水の出来事を通して、罪人になった人類をなおも神は保持してくださる広い普遍的な視野で描いている。そして、さらに、創世記１０章‐１１章における「諸国の登録」において、そこに記録された多数の見知らぬ名前は、イスラエル人でない国民が、救いの計画から永久に退けられることはないという聖書の原則を表していて、後に、ペンテステにおいて、救いに召される背景となっている。こうして、スパイクマンは、イスラエルの先祖のアブラハム以前の前歴史の広い普遍的な人類についての記述や世界的な視野の広さの重要性を述べている。
第３点は、スパイクマンは、選ばれた神の民としてのイスラエルの歴史が記された旧約聖書について語る。すなわち、旧約聖書は、確かに、イスラエルの歴史記述であるが、しかし、単なる歴史記述ではなく、信仰と生活の神の権威ある規範、すなわち経典であることを語る。旧約聖書は、律法、預言、知恵文学において、神が継続的に彼の民を裁き、彼らを悔い改めに招き、生活の更新を促し、救いの希望を保持し、メシア的な期待に生き続ける規範であり、また基準として仕える。ところがオランダの神学者のファン ルーラーは、新約聖書の価値を下落する意図はなかったが、「新約聖書は、言わば、旧約聖書から残されたいくつかの奇妙な概念をさらに明確にする付録にすぎない」、また、さらにより強く言えば、新約聖書は、「世における神の唯一の真の言葉としての旧約聖書の決定的な布告である」と述べて、本質的に、旧約聖書が真の聖書であると主張した。しかし、これは、結果から見れば、誤りである。何故なら聖書は、旧約聖書と新約聖書の２つの聖書があっても、約束と成就として、２つの聖書は有機的統一性で成立しているからである。アウグスチヌスが言ったように、旧約聖書に隠されていることは、新約聖書において明らかにされているのである。ベルクーワも旧約聖書と新約聖書の有機的統一性を約束と成就として語っている。すなわち、ヨハネ５：３９で「聖書はわたしについて証をするものだ」と、キリストが自ら語っているように、旧約聖書は、救いの歴史、贖いの歴史として進展的に、キリストの出現、人格、みわざを約束として証言し、その約束はすべてキリストにおいて実現し、成就し、現実となったことを新約聖書は証言している。旧約聖書をどのように観るかについては、拙著「G.C.ベルクーワ：教義学研究－その紹介と解説－」の「第６巻 キリストの人格」の「第7章 約束と成就」を参照のこと。
第４点は、スパイクマンが、旧約聖書の具体的内容として、律法、預言者、諸書について語っていることである。一般的に、旧約聖書は、律法、歴史、諸書、預言者の４つに区分されるが、ヘブライ語聖書は異なり、ルカ２４：４４にあるように、律法、預言者、諸書の３つに区分する。そこで、スパイクマンも、ヘブライ語聖書にしたがって、３つの区分で説明する。まず律法であるが、ヘブライ語では、「トーラー」と呼ばれ、旧約聖書の最初の５巻のモーセ五書を指す。そして、律法は、神の民の全生活を真にカバーし、人間に対する神の要求である。
預言者は、初期の預言者と後期の預言者に区別され、初期の預言者はエリヤやエリシャなどであり、後期の預言者はイザヤからマラキである。預言者たちは「先見者たち」とも呼ばれたが、将来を指し示すだけでなく、読んで字の如しで、神の言葉を預かって、神の代弁者として、同時代の人々に、神の御心を語ったのである。また、彼らは、神から「「わたしの僕たち」と呼ばれて、イスラエルに蔓延している罪と悪を非難し、悔い改めて、神との契約に立ち帰るように求めたのである。しかし、民は頑なであったため、預言者たちは、民に神の裁きを激しく語る。でも、それと同時に、預言者は必ずメシアによる救いと贖いを語った。その代表例は、イザヤ５３章の受難の僕としてのメシアの代理贖罪が予告され、約束された。
諸書とは、ヨブ記、詩編、箴言、コヘレトの言葉、雅歌である。それらは、、文学的な型の大きな多様性に富み―ドラマ、対話、詩、賢明なことわざ、教えなどである。ヨブの苦しみに直面した苦い悲しみ、箴言における父親の懸念、コヘレトの神の摂理における神秘についての戸惑い、雅歌の情熱的な忠実さが見られるが、スパイクマンは、ヘンドリクス・ベルコフの言葉「「諸書においては、その核は詩編であり」を引用して語る。詩編は、悔い改め、信頼、不安、感謝の気持ち、正義、愛、不平、喜び、希望など、幅広く表明している。
ルターは、詩編を、「ミニチュアの聖書である」と呼んで、詩編は全聖書の要約と見なした。また、スパイクマンは、１５０の詩編と他の諸書を共にまとめる中心的な統一的なモチーフは、「知恵の初め」として「主を恐れること」である（詩編１１１：１０、箴言１：７、９：１０）と語る。なお、よく知られたハーレイ著「聖書ハンドブック」の詩編の解説を見ると、詩編の中心思想として「より頼め」（信頼せよ）が全詩編を通ずる第一の、重要な思想で、何度も何度も繰り返されている」と述べているが、本当だと思う。なお、わたしの経験であるが、現職のとき、祈祷会で１５０編の詩編を1編づつ、長い詩編は数回に分けて、ヘブライ語の元々の意味を明らかにしながら、奨励し、共にお祈りをしたが、わたしたちの心を神に向かって整えるのにとてもよかったと感じた。霊性を整えるのに、とてもよかったと思う。
第５点は、スパイクマンは、今も旧約聖書しか持たないユダヤ教会を、どのように考えるのかという問題を扱う。ユダヤ教会とキリスト教会は、キリストの十字架の死と空の墓の復活を、どのように説明するかで、道が分かれるのである。すなわち、旧約聖書時代から新約聖書の時代に来る契約の歴史における連続性を認めないで、自分自身の道を行くユダヤ教会と、連続性を認めて、律法、預言者、諸書から成る旧約聖書との深い統一性から生きるキリスト教会に道が分かれるのである。
しかし、だからと言って、ユダヤ人には、救いは最早ないのであろうか。ユダヤ人は、救いに招かれていないのだろうか。すると、スパイクマンは、リッダーの言葉を引用して、「教会は、今がイスラエルの救いの日であることを認めなければならない・・・教会は、・・・異邦人たちと同様にユダ人たちも、神の贖いのみわざへの唯一の救済的な応答として、イエス・キリストにおける信仰への福音によって召されていることを認めなければならない」と述べる。旧約歴史を担ったユダ人たちへの召しと賜物は変わらないのである。しかし、ユダヤ人だから自動的に救われることはなく、ユダヤ人も教会が宣べ伝えている十字架のキリストを信仰して、恵みによってのみ罪から救われるのであり、救われる方法は、わたしたち異邦人と同じなのである。
ユダヤ人の救いへの回復の問題については、拙著「説教集：ローマの信徒への手紙（下巻）」の「１１：１－１０ イスラエル民族の救い」、「１１：１１－２４ イスラエルの回復」、「１１：２５－３６ 神の救いの計画の完成」を参照のこと。
以上で、第４部：第２章「イスラエルとの神の道」の解説を終わるが、旧約聖書に対するわたしたちの姿勢は、ウェストミンスター信仰告白「第1章 聖書について」の「第２節」で、「聖書すなわちしるされた神のみ言葉という名の下に、今では、旧新約のすべての書が含まれている。それらは、次のものである。旧約聖書では、創世記・・・・マラキ書。新約聖書では、マタイ・マルコ・ルカ・ヨハネによる福音書・・・黙示録。これらはみな、神の霊感によって与えられており、信仰と生活の規準（規範）である」と、明白に旧新約聖書が一つのまとまりとして、神の言葉であることを、確信をもって力強く表明している。これが、わたしたちの旧約聖書に対する姿勢である。