「信仰の勝利の歌」（改訂版）

８章３１節―３９節

はじめに

　わたしたちは、主の日の朝の礼拝においては、１世紀の使徒パウロが紀元５６年頃、ローマの信徒たちに書いたローマの信徒への手紙を学んでいますが、今日も、わたしたちは、キリストにある素晴らしい救いを順序立てて教えているローマの信徒への手紙から教えられたいと思います。

　それで、今日のところは、何が教えられているのでしょう。すると、今日のところは、クリスチャンは、逆境の中でも、心の最も深いところに信仰の勝利を確信して歩むようにと、使徒パウロが１世紀の苦難の多かったクリスチャンを力強く励ましているところです。具体的には５つの信仰の確信を語って励ましています。

　そこで、今日の個所から、それらの５点の信仰の確信を教えられ、今日のわたしたちクリスチャンも、いろいろなことがあってもこれらの５つの信仰の確信を心の深みにしっかり定着させ、少しも揺がず信仰による勝利の人生を前を向いて力強く歩んでいきたいと思います。

１．神は、常にクリスチャンの味方で助けてくださるという信仰の確信

　早速、第１の信仰の確信に入ります。第１の信仰の確信は、神は、常にクリスチャンの味方で、いつも共にいてクリスチャンを助けてくださるという信仰の確信です。３１節がそうです。

考えてみますと、パウロがこの手紙を書いたときは、まだキリスト教信仰は、人々に知られていないゆえに、キリスト教信仰は、先祖伝来の宗教とは異なる危険な宗教として敵視され、クリスチャンは、キリスト教信仰に敵対する多くの人々の中で、信仰の戦いをしながら信仰を維持しなければなりませんでした。

すなわち、クリスチャンになれば、それまで周囲の人々と一緒に行っていた先祖伝来の宗教行事を一緒にできなくなりますので、人々は、キリス教信仰は和を乱す危険な宗教として、キリス教信仰を敵視し、多くの人々がクリスチャンに敵対するようになりますし、実際に敵対されたのです。

　では、このような厳しい状況のとき、使徒パウロはどのように語ったのでしょう。すると、信仰をもって生きることは、苦しいから止めていいですよと言ったでしょうか、いいえ逆です。慈愛深い天の父なる神は、常にクリスチャンの味方で、幾つもの恵みの仕掛けを作って助けてくださるので、クリスチャンは、逆境にあっても、揺るがず歩むように力強く勧めたのです。

　３１節がそうです。「では、これらのことについて何と言ったらよいのでしょうか。もし、神がわたしたちの味方であるならば、だれがわたしたちに敵対できますか」と言われていますが、何と、力強い信仰の確信の表明でしょう。「これらのことについて何と言ったらよいのでしょうか」とありますが、「これらのこと」というのは、それまでに語られてきたところの８章１節から３０節までで言われてきたことを意味します。

具体的には、クリスチャンには、信仰ゆえのいろいろな苦しみがあります。しかし、神は、幾つもの恵みの仕掛けを作って助けていてくださるのです。たとえば、一人一人のクリスチャンの心に、聖霊を親しく住まわせてくださって、罪の力がクリスチャンを支配しないようにしてくださっています。

また、一人一人のクリスチャンの心に、親しく住んでくださる聖霊は、天地（あめつち）の造り主なる神を、「アッバ、父よ」と呼ばせて、神を天のお父ちゃんと親しく呼んで心が触れ合うまじわりができるようにしてくださいます。また、聖霊が与えられているゆえに、クリスチャンは、キリストにあって、共同の相続人とされ、世の終わりに栄光の御国を受け継ぎます。

また、クリスチャンは、世の終わりには、二度と死ぬことにない不死の体に復活させられ、罪と無縁の神の子として出現します。また、内住の聖霊は、わたしたちの祈りが、父なる神に受け入れられるように、祈りを執り成し媒介をしてくださっています。また、神は、万事が相働きて、わたしたち信クリスチャンの益になるように摂理の御手をもって今、導いてくださっています。これらすべては、神が、わたいたちクリスチャンのためにしてくださっていることです。これだけしてくだされば大丈夫なのです。

こうして、慈愛深い神は、恵みの仕掛けを幾つも作って、わたしたちクリスチャンを助けてくださっているなら、クリスチャンは、逆境にあっても、「もし、神がわたしたちの味方であるならば、だれがわたしたちに敵対できますか」、誰もできないでしょうと信仰の確信を大胆に表明し、信仰の道を勇気をもって突き進んでいけるのです。

　それで、「もし、神がわたしたちの味方であるならば」という言い方が出ていますが、実は、原文では、「もし、神がわたしたちのためならば」という言い方で、その意味は、もし神が、クリスチャンのために、すなわち、クリスチャンの益のために、幾つもの恵みの仕掛けを作って助けていてくださるのであればという意味です。そして、もし、そうなら、「だれがわたしたちに敵対できますか」、誰もできないでしょうと答えることができるのです。

今日も同じです。わたしたち日本のクリスチャンにも、信仰ゆえにいろいろなことがあります。しかし、慈愛深い神は、わたしたちの信仰が壊れないように、幾つもの恵みの仕掛けを作って助けていてくださっているのです。それゆえ、今日のわたしたちも、「もし、神がわたしたちの味方であるならば、だれがわたしたちに敵対できますか」、誰もできないでしょうと、信仰の確信を力強く表明、告白し、信仰の生涯を歩んでいくことが必ずできるのです。

２．神は、なおさらクリスチャンの歩みに必要なものを与えてくださるとの確信

第２点に入ります。では、１世紀の逆境にあるクリスチャンが、心の深みにしっかり持つべき第２の信仰の確信とは何でしょう。すると、第２の信仰の確信は、御子のイエスさまをわたしたちの救いのために与えてくださった神は、御子のイエスさまを信じて歩むために必要なものを、御子のイエスさまと一緒に、恵みとして必ず与えてくださるという信仰の確信です。

　１世紀の信者は、先祖伝来の宗教とは異なる宗教として、人々から危険視され、キリスト教信仰に敵対する多くの人々中で生きていかねばなりませんでした。そのため、日々の生活においても制裁を受け、パンを手に入れることができなくなる不安も幾らでもありました。

　そこで、パウロは、第２の信仰の確信として、クリスチャンの救いのために、御自身の比類なき大切な御子であるイエスさまさえも十字架の犠牲の死に引き渡し、救いの恵みという無限の価値ある恵みを惜しむことなく、神が与えてくださったのであれば、なおさら、その御子のイエスさまと一緒に、他のすべての必要なものも恵みとして与えてくださるという信仰の確信を、心の最も深いところにしっかり持って歩むべきことを、これまた、実に力強く勧めたのです。

　３２節がそうです。「その御子さえも惜しまず」とありますが、「御子」という言い方は、もともとは、「御自身の御子さえも惜しまず」という言い方で、わざわざ「御自身の」という言葉がついていて、父なる神御自身にとって、イエスさまが、比類なき大切さを持っている御子であることを、この上なく強調しています。まさに、神の独り子で、神の御子は何人もいませんし、他の者が代わることもできない唯一無比の、この上なく尊い御子なのです

　そして、また、「惜しまず」という言葉の意味は、犠牲にすることを少しもためらわない姿勢を表します。それゆえ、罪からの救いのために、少しもためらわず、御子のイエスさまを苦しみと恥と裁きと呪いの十字架の死に、父なる神が、引き渡したのは、わたしたちを、絶対的に、一方的に、無償で愛してくださったからです。

　それゆえ、神が、最高で最大の恵みである御自身の御子のイエスさまを惜しみなく、わたしたちクリスチャンに与えてくださったということは、なおさら、クリスチャンがイエスさまを信じて、この世の歩みをしてくために必要なすべての恵みを、惜しみなく与えてくださることを必ず含んでいるのです。

　「すべてのものをわたしたちに賜わらないはずがありえましょうか」とありますが、「すべてのもの」が、一体、何を意味しているのかと思うのですが、おそらく、イエスさまを信じて、この世の歩みをしていくときに必要な日毎のパンをはじめとする、生活的な具体的なものが意味されていると思われます。

　かつて、イエスさまは、山上の説教で、マタイ６章で、「何よりもまず、神の国と神の義を求めなさい。そうすれば、これらのものはみな加えて与えられる」と教えられましたが、その教えと同じことをパウロも教えていると思われます。

天の父なる神は、最高で最大で無限の価値を持つ恵みであるイエスさまを惜しみなく与えてくださったのであれば、イエスさまよりも価値の低いこの世のものは、なおさら、恵みとして、恩寵として惜しみなく必ず与えてくださるのですし、また、与えることがおできになるのです。とてつもなく大きなものを惜しみなく与えてくださる神は、なおさら、小さなものは惜しみなく必ず与えてくださるはずです。

　今日のわたしたちクリスチャンも、大きな恵みを惜しみなく与えてくださった神は、なおさら、小さな恵みを必ず与えてくださることを信仰によって確信し、今、生きて働いてくださる万物の所有者なる真の神を、日々信頼して歩んでいきたいと思います。

３．わたしたちが、神からの選びと義認により救われているという確信

　さて、では、１世紀の逆境にあるクリスチャンが、心の深みにしっかり持つべき第３の信仰の確信とは、何でしょう。すると、第３の信仰の確信は、クリスチャンが、自分は永遠からの神の選びに基づき、神御自身から義とされ救われているという信仰の確信を、心の深みにおいてしっかり持つことです。

　すなわち、１世紀において、キリスト教信仰は、先祖伝来の宗教とは異なった危険な宗教として危険視され、多くの人々から敵対され、まるで悪事をしているかのように扱われ、敵対する人々の自分勝手ないろいろな口実で、この世の法廷に訴えられ、告訴される可能性がありました。そして、実際に訴えられ、告訴されました。

　そこで、使徒パウロは、クリスチャンたちが動揺しないで、クリスチャンは、天地の造られる前の永遠において、すでにキリストによって救われるように、神によって選ばれており、さらに、神御自身が信仰義認によって、クリスチャンを義として、すなわち、正しいと宣言してくださっているという強い信仰の確信を、心の深みにしっかり持ち続けて背教しないように力強く励ましたのです。

３３節がそうです。３３節前半に、「だれが神に選ばれた者たちを訴えるのでしょう」とありますが、「訴える」とありますが、これは、キリスト教信仰が先祖伝来の宗教とは異なった宗教として危険視され、ローマのクリスチャンたちが、人々から、いろいろな口実で、この世の法廷や裁判に訴えられ、告訴される可能性を意味しています。

でも、パウロは、クリスチャンたちが、この世の法廷に訴えられても、決して、背教せず、信仰にしっかり留まり続けるように力強く励ましたのです。すなわち、クリスチャンは、何一つ悪事をしてはいないのです。

考えてみますと、クリスチャンは、何と、すでに天地の造られる前の永遠において、キリストによって救われるように、神の愛と恵みにより選ばれており、そして、神御自身によって、信仰義認のゆえに、義、すなわち、正しいと宣言されています。それゆえ、この世の法廷に訴えられたり、告訴されることがあっても、決して動揺して、背教しないように励ましたのです。

３３節前半に、「神に選ばれた者たち」とありますが、これは、いわゆる永遠からの恵みの選びのことです。すなわち、クリスチャンは、天地創造以前の永遠において、すでにキリストによって救われるように選ばれていたことを表します。また、３３節後半に、「人を義としてくださるのは神なのです」とありますが、もともとのギリシャ語の語順は、「神なのです。人を義としてくださるのは」となっていて、最初に、神という言葉が、ドーンと出て、クリスチャンを、信仰義認によって、義、すなわち、正しいと宣言してくださっているのは、人ならぬ天地万物の創造者である偉大な神御自身であることを強調しています。ですから、天地万物の創造者である偉大な神御自身が、義、すなわち、正しいと宣言してくださっているクリスチャンを訴え、告訴できる人など、本来、もともと、誰１人もいないという信仰の確信をもって、ローマの信者たちが歩み続けるように、使徒パウロは励ましたのです。

そして、このことは、２１世紀の日本のクリスチャンであるわたしにも当てはまります。わたしたちも、先祖伝来の日本の宗教とはまったく異質なキリスト教信仰をもって生きていますので、いろいろなことがあります。でも、いろいろなことがあっても、自分は、何と、神により、天地の造られる前の永遠において、キリストによって救われるように、すでに愛と恵みゆえに選ばれており、そして、さらに、神が自ら権威をもって、自分を信仰義認のゆえに、義、すなわち、正しいと宣言してくださっているという信仰の確信を、心の最も深いところにしっかり定着させ、いろいろなことがあっても、それらを全部乗り越え、信仰の道を歩んでいきたいと思います。

４．キリストが罪から贖い、神に執り成しをしていてくださるという確信

　第４点に入ります。では、第４の信仰の確信は、何でしょう。すると、第４の信仰の確信は、キリストが罪から贖い、そのキリストが父なる神に執り成しをしていてくださるわたしたちクリスチャンを、罪に定めることは、本来、だれにもできないという信仰の確信を持つことです。

この第４の信仰の確信は、第３の信仰の確信と、内容的にはほとんど同じと言えますが、第３の確信は、永遠からの選びと、信仰義認のゆえに、クリスチャンは本来、誰からも、もともと、訴えられたり、告訴されたりする筋合いはないという確信でしたが、この第４の信仰の確信は、さらにより強い確信で、本来、だれも、クリスチャンを有罪として、この世の法廷に、訴え、告訴して、刑罰を要求できる人はいないという信仰の確信です。

では、どうして、本来、だれも、クリスチャンを有罪として、この世の法廷に訴え、告訴して、刑罰を要求することはできないかと言いますと、その理由が、第３の信仰の確信の理由と違って、クリスチャンには、天の父なる神の右に親しく坐して、クリスチャンが父なる神に受け入れられるように、常に、絶えず、いつも執り成しをしてくださっているキリストであるイエスさま、すなわち、救い主のイエスさまがおられるからです。

父なる神の御心にしたがって、クリスチャンの罪の贖いのため、苦しみと恥と呪いの十字架の死に至るまでの従順に歩んで、わたしたちクリスチャンを罪から買い戻し、贖って死んでくさった救い主のイエスさまを、父なる神は、喜び、そのイエスさまを死から復活させ、誉れと親しさと権威のしるしである御自分の右に坐せしめ、イエスさまに万物の支配を委ねたのです。そして、そのイエスさまの執り成し、仲介、媒介を、父なる神はすべて全部一切を快く受け入れるのです。それゆえ、イエスさまによって、執り成しをされているわたしたちクリスチャンを、この世の法廷に訴え、告訴して、罪ありして、刑罰を要求できる者は、本来、だれ一人いるはずがないのです。そこで、パウロは、クリスチャンが、この信仰の確信をもって歩んでいくように励ましたのです。

３４節がそうです。「だれがわたしたちを罪に定めることができましょう」とありますが、この文章には、誰もいませんという答えが返ってくることが暗黙に了解されています。「罪に定める」というのは、この世の法廷に、罪ありとして、有罪として、訴え、告訴して、刑罰を要求することを意味します。

しかし、クリスチャンを、この世の法廷に、罪ありとして、有罪として、訴え、告訴して、刑罰を要求できる人は、本来、もともとは、いるはずがないのです。何故でしょう。すると、その理由は、クリスチャンには、天の父なる神の右に親しく坐して、クリスチャンが父なる神に受け入れられるように、常に、絶えず、いつも執り成しをしてくださっているキリストであるイエスさま、すなわち、救い主のイエスさまがいるからです。

３５節後半に、「死んだ方」とありますが、これは、父なる神の御心にしたがって、クリスチャンの罪の贖いのため、苦しみと恥と呪いの十字架で死んでくださったキリストであるイエスさま、すなわち、救い主のイエスさまを表しています。

また、「否、むしろ、復活させられた方であるキリスト・イエスが」とありますが、これは、父なる神の御心にしたがって、信者の罪の贖いのため、苦しみと恥と呪いの十字架の死に至るまでの従順に歩んで死んだ救い主のイエスさまを、父なる神が、喜び、イエスさまを死者の中から復活させたことを表します。

そして、さらに、「神の右に座っていて」とありますが、これは、父なる神が、イエスさまを死者の中から復活させ、誉れと親しさと権威のしるしである御自分の右に坐せしめて万物の支配を委ねたのであり、そのイエスさまの執り成し、仲介、媒介を、父なる神は、すべて全部一切快く受け入れるので、イエスさまによって、執り成しをされているわたしたちクリスチャンを、法廷に訴え、告訴して、罪ありとして、有罪として、刑罰を要求できる者は、本来、だれ一人いるはずがないことを、力強く教えています。

特に、この文脈においては、イエスさまの死よりも、むしろ、死者の中から復活させられて、誉れと親しさと権威のしるしである父なる神の右に坐している救い主のイエスさまが、わたしたちクリスチャンが、父なる神に受け入れられるように、常に、いつも、執り成し、仲介、媒介をしていてくださることをより強く強調しています。キリストであるイエスさま、救い主であるイエスさまが、常に、いつも、取り成してくださっているのですから、誰も、キリスト教を信仰しただけの理由で、さも悪事をなしたかのようにして、この世の法廷に訴え、告訴し、刑罰を要求できる人など、本来は、一人もいないのです。なお、「神の右に坐す」というのは、誉れと親しさと権威のしるしです。

そして、このことは、今日も同じです。死者の中から復活させられた救い主のイエスさまは、あなたが、そして、わたしが、父なる神に受け入れられるように、絶えず、常に、いつも、執り成してくださっているのです。それゆえ、心の最も深いところに平安をもって日々しっかり歩みたいと思います。

５．キリストの大きな愛からクリスチャンを引き離すものは何もないのです

では、逆境において持つべき第５の信仰の確信は、何でしょう。すると、第５の信仰の確信は、十字架の死で示されたキリストの大きな愛、絶対愛、一方的愛、無償の愛から、また、その救いの御計画を立ててくださった父なる神の永遠の愛から、クリスチャンを引き離し、引き裂くものは、この世に何一つないという信仰の確信です。

３５節から３９節がそうです。「だれが、キリストの愛からわたしたちを引き離すことができましょうか」と、パウロは、疑問文で問うていますが、その答は、「だれも、キリストの愛からわたしたちを引き離すことが絶対にできません」という力強い答えが返ってくることを前提としています。

そして、「キリストの愛」とありますが、これは、もちろん、わたしたち信者の罪の贖いのため、十字架の苦しみと死において現わされたイエスさまの絶対愛、一方的な愛、無償の愛を意味しています。この「愛」というギリシャ語は、よく言われますように、アガペーという言葉ですが、アガペーで表わされる愛は、愛される資格や値打ちがまったくないのに愛する絶対愛、一方的な愛、無償の愛を意味します。

愛される資格と値打ちがまったくないのに、逆に、罪を犯して生きているゆえに、神の怒りによって裁かれ、滅ぼされることがふさわしいのにもかかわらず、わたしたちをその罪から、御自分のきよい命を代価として払って、罪から買い戻し、あがなってくださったキリストの絶対愛、一方的な愛、無償の愛から、わたしたちを分離できるもの、引き離せるもの、セパレートできるものは、この世に何一つないのです。

信仰ゆえに受けるののしり、嘲り、罵詈雑言、困難、苦しみ、迫害、食べるものに困ること、身にまとうものに事欠くこと、身の危険、そして、剣で、信仰を捨てるように脅されたり、また、実際に、剣で命を奪われようとも、わたしたちクリスチャンを、キリストの絶対愛、一方的な愛、無償の愛から分離できないのです。セパレートできないのです。引き裂くことはできないのです。

キリスト教信仰が成立して３０年も、まだ経っていないパウロの時代において、キリスト教信仰をもって生きていくということは、文字通り、ここに羅列されているだけでも７つの苦しみを覚悟しなければなりませんでした。それゆえ、使徒パウロもそれを隠しませんでした。

否、隠すどころか、信仰ゆえの苦しみが伴うことは、以前の旧約時代から明白に教えられていたことであるとして、パウロは、３６節で旧約聖書の詩篇４４編２３節の御言葉を引用したほどです。その詩編の意味は、旧約時代の神の民と言われるイスラエルにおいても、霊的に荒廃し、真の信者は少なく、真の信者は、真の神への信仰のために、他の人々から、朝から晩まで一日中、死の危険にさらされていて、屠られる羊、すなわち、殺される羊にたとえられるほどの苦しみを覚悟しなければならなかったのです。

そうだとすれば、１世紀の異教の地中海世界においては、なおさら、ここに羅列されているだけでも、７つの苦しみが伴うことを覚悟しなければ、信仰をもって生きていくことはできませんでした。そこで、パウロは、信仰には苦しみが伴うことを、隠さず、逆に、はっきり明白に教えたのです。そして、同時に、その苦しみに打ち勝つ方法もはっきり明白に教えたのです。これが、キリスト教信仰が真実で素晴らしいところです。

では、ここに羅列されているだけでも、「艱難か。苦しみか。迫害か。飢えか。裸か。危険か。剣か」と７つの苦しみが挙げられています。これら７つの苦しみは、信仰ゆえに受ける苦しみです。「艱難」とは信仰ゆえに受ける圧迫のこと、「苦しみ」とは信仰ゆえに受ける苦悩のこと、「迫害」とは、信仰ゆえに受ける精神的・身体的苦痛、「飢え」とは信仰ゆうえに食べ物に困窮すること、「裸」とは、信仰ゆえに迫害されて着るものがなく寒さに凍えること、「危険」とは信仰ゆえの迫害で命が危険にさらされること、「剣」とは信仰ゆえに迫害されて剣で殺されて殉教の死を遂げることを表しています。

でも、パウロは、それら７つの苦しみを挙げたにもにもかかわらず、キリスト教信仰を持って、勝利の人生を歩むことができると断言してはばからないのです。何故でしょう。すると、キリストの絶対愛、一方的な愛、無償の愛から、わたしたちを分離できるもの、セパレートできるものは、引き裂くものはこの世に、一切ないことを、心、魂、霊魂、精神の最も深いところでこの上なく強く確信していたからです。すなわち、「剣」によって殉教の死を遂げてさえも、キリストの愛から自分を引き裂くことはできないことをこの上なく強く確信していたからです。そして、この上なく強い確信があれば、どのような逆境も乗り越えて、信仰の勝利の歌を歌って信仰の生涯をまっとうすることができることを確信していたからです。

３７節を見ますと、驚くべきことが書いてあります。「しかし、これらすべてのことにおいて、わたしたちは、わたしたちを愛してくださる方によって輝かしい勝利を収めています」とありまして、「わたしたちを愛してくださる方」とは、救い主のイエスさまのことです。そして、「輝かしい勝利を収めています」とありますが、「輝かしい勝利を収める」というギリシャ語は、「より勝利する」という意味で、聖書において、ここにだけに一回出てくるとても印象深い珍しい言葉で、一回聞いたら忘れることができない言葉です。

では、「より勝利する」とは、具体的に、どのような意味でしょう。すると、普通の勝利よりももっと勝利する、通常の勝ち方よりも、それ以上の勝ち方をするという意味です。そこで、新共同訳聖書は、「輝かしい勝利を収めています」と訳しましたが、以前の口語訳聖書は、名訳をしていて、「・・・勝ち得て余りがある」と訳したのです。

まさに、名訳、素晴らしい訳ですね。勝利するのですが、やっと勝つとか、どうにかこうにか勝ついのではないです。完全に勝つのです。そして、それでも、まだ、余りがある、余裕があるという勝利、大勝利であり、完全な勝利なのです。

では、「勝ち得て余りある勝利」とは、具体的にどんな勝利でしょう。すると、この世のどんな被造物も、イエスさまの十字架による救いの道を開く御計画を立ててくださった父なる神の絶対愛、一方的愛、無償の愛から、わたしたち信者を引き離すことができない勝利なのです。

３８節に、１０個のものが羅列されていますが、この表現は、１世紀の信者が、神に造られた被造物全体を表す慣用句であったかもしれません。この表現で、神に造られたものすべてを表したのでしょう。

それで、１０個のものの意味を見ておきましょう。まず、「死も、命も」、神の愛から引き離せないということですが、死とは、迫害ゆえの死もという意味と思われます。では、「命」も、神の愛から引き離せないとは、どういうことかと思いますが、信仰を捨てるなら、命を奪うことをしないという誘いも、神の愛から引き離せないということを意味しているのかもしれません。

「天使も、支配するものも、力あるものも」というのは、どの階級、どのランクにいる天使も、神の愛から引き離せないということを意味しているのかもしれません。「天使も、支配するものも、力あるものも」という言い方で、天使の階級、ランンクを表しているのかもしれません。「現在ものものも、未来のものも」というのは、時間、あるいは、時間の経過も、神の愛から引き離せないということを意味しているのかもしれません。「高いところにいるものも、低いところにいるものも、」というのは、原文では、「高さも、深さも」という言い方で、空間的なものも、神の愛から引き離せないということを意味しているのかもしれません。「他の被造物も」というのは、これら以外にもいるかもしれない被造物も、神の愛から引き離せないということを意味しているのでしょう。

１個１個については、いろいろな理解がありますが、パウロが言おうとしていることは、単純明快で、この世のどんな被造物も、わたしたちの救いのため、イエスさまを十字架にかけて救いの道を開く御計画を立ててくださった父なる神の絶対愛、一方的愛、無償の愛から、わたしたちクリスチャンを引き裂くことができないことを言おうとしています。

本当にそうです。わたしたちの救いのために、御自身を十字架で犠牲にしてくださったことにおいて現わされたイエスさまの絶対愛と、その御計画を立ててくださった父なる神の絶対愛という二重に重なった驚くべき愛から、わたしたちクリスチャンを引き裂く力を持った被造物は、何一つあり得ないのです。そこで、パウロは、信仰のこの上なく強い確信を持って、１世紀の逆境を乗り超えていくように、ローマの信者に勧めたのです。

そして、これは聖書には書いてありませんが、教会の言い伝え、伝承によれば、パウロ自身も紀元６７年ごろ、すなわち、このローマの信徒への手紙を書いてから、１１年後ほどに、ローマ皇帝、暴君ネロに捕えられ、残首の刑、すなわち、剣で首を切られて殉教の死を遂げたと伝えられています。しかし、それでも、パウロをイエスさまの愛と父なる神の愛から引き裂くことはできなかったのです。

もしパウロをはじめとする１世紀のクリスチャンが信仰ゆえに受ける苦しみを受けるのは嫌だと言って、信仰を捨てたならば、信仰は途絶えて、今日の日本にまで伝わることはなく、あなたもわたしも救われることはなく、最後の審判に向かう虚しい人生を歩んでいたことでしょう。

しかし、パウロをはじめとする１世紀のクリスチャンが、イエスさまの愛と父なる神の愛から自分たちを引き裂くものは何もないとのこの上なく強い確信をもって信仰の勝利の歌を歌いながら信仰の生涯をまっとうしたので、信仰が今日まで伝わり、あなたもわたしも罪の赦しと永遠の命よりなる素晴らしい救いを受け、真の人生を今喜んで歩めるのです。彼らは、わたしたちにとって雲のような多くの証人となったのです。

結び

今日も同じです。日本においても、信仰を妨げるいろいろな力が働いています。でも、わたしたちも、十字架において現わされたイエスさまの絶対愛と父なる神の絶対愛が重なる驚くべき愛を、心に深く、そして、この上なく強く確信し、信仰の勝利の歌を歌いながら、信仰の生涯を歩んでいきたいと思います。

お祈り

　憐み深い天の父なる神さま、

あなたの変わらぬいつくしみと御心に支えられて、１週間を各々のところで、歩みましたが、また、今日も、新しい週の最初の日に、御前に、礼拝に導かれ、心から感謝いたします。

　今、わたしたちは、使徒パウロのローマの信徒への手紙の８章を通して、信仰の勝利の歌とも言えるところを学びました。まことに、わたしたちの歩むにおいて、試練も強く働きますが、しかし、あなたの愛、また、キリストの愛かは、もっともっと強く、圧倒的に豊かに、強く働いて、わたしたちに、勝ち得て余りある確信を与えて、救いの完成を目指してくださることを、深く知り、心から感謝いたします。

　どうか、聖霊なる神が、一人一人の魂の奥深くに、この素晴らしい確信を与えてくださるようにお祈りいたします。そして、わたしたちが、いつでも、どこでも、あなたとの喜びに満ちた愛のまじわりに、日々、生きていくことができるようにしてください。

　また、阪神大震災に遭った教会、信徒の方々、一般の方々を、助けてください。わたしたちも、被災した方々を、いろいろな仕方で、支援できますように、聖霊の導きをお与えください。

本日、種々の都合や事情で、出席できなかった兄弟姉妹に、それぞれのところで顧みがありますように、お祈りいたします。

　今日から始まるわたしたちの新しい１週間を、どこにあっても、豊かに祝福してください。

　これらの祈りを、主イエス・キリストの御名によって、御前に、お献げいたします。アーメン。