| 「ある女性の信仰」 ヨシュア記２章１節−２４節 はじめに わたしたちは、家庭周りの夕べの礼拝において、ある時から、旧約聖書のシュア記に入りました。そして、ヨシュア記とはどんな内容かと言いますと、神の民イスラエルの大きな転換期を記している書物です。 すなわち、出エジプトの指導者モーセの死んだ後、モーセの後継者となったヨシュアに率いられ、イスラエルの民がいよいよ約束の地カナンに入って、先住民族と戦って、カナンの地を自分のものとして受け取るという内容です。イエス・キリスト出現の１４００年前、あるいは、１３００年前の出来事です。 それで、今晩もお話しはどんなお話しかと言いますと、「ある女性の信仰」となっていますが、これは、エリコの町の遊女ラハブの信仰を表しています。すなわち、ヨシュアから遣わされた２人の斥候がエリコの偵察のため町に入ってきます。しかし、エリコの役人たちに追われることになります。そして、その時に遊女ラハブが２人の斥候を助けるのですが、その際に、ラハブの信仰が明白になります。そして、信仰ゆえに、ラハブとその家族は、後に、救いと祝福を受けて、イスラエルの民に入ることになります。 旧約時代において、救いと祝福を受けるのは、本来は、イスラエルの民だけでありました。しかし、ラハブは、元来、異教の神を拝むものでしたが、でも、心ヘり下って、出エジプトの偉大な御業をしたイスラエルの神をまことの神として信仰し、受け入れることによって、救いと祝福を受けることになるのです。こうして、旧約時代であっても、信仰によって救いと祝福を受けることがとてもよくわかります。 そこで、今晩、私たちも、遊女ラハブの優れた信仰に目を向けたいと思います。 １．ヨシュアは２人の斥候を遣わしました まず、わたしたちは、ヨシュアは、約束の地カナンに侵入する時に、ヨルダン川東側のシッテムからヨルダン川を渡り、カナン全地の入り口にあたるエリコの町を攻めをとして、カナンに侵入していくという作戦を立てました。そのため、２人の斥候を遣わして、エリコの町の偵察を命じました。 １節に、「『「行って、エリコとその周辺を探れ』と命じた。」とありまして、「エリコ」と出てきますが、「エリコ」という町は、ヨルダン川の東側の町ですが、カナン全体の入り口にあたる位置にあります。従って、カナン全体を自分の領土とするためには、まず、カナンの入り口にあたる、このエリコの町を攻めを落とすことが必要です。 ですから、このエリコ攻略はとても重要です。これがうまくいかなければ、次が続きません。こういうことは、私たちの人生にもあるでしょう。あることがうまくいかなければ、次のことができないということがあるでしょう。それに似ています。 ２．２人の斥候は遊女ラハブの家に入りました １節後半に、「２人は行って、ラハブという遊女の家に入り、そこに泊まった」とありまして、「遊女の家に入り」と言われていますが、2人の斥候が遊女の家に入ったのは、人々から怪しまれにくいからです。遊女のところには、いろいろな人々が出入りするからです。また、遊女は、自分のところにやってくる人々といろいろな話をするので、エリコの町についての情報も入手しやすいのです。 ところが、２人の斥候が情報収集のため町に、遊女ラハブ家に入ったということが、察知され、エリコの王に通報され、エリコの王は、兵隊たちを遊女ラハブの家に遣わし、2人の斥候の身柄引き渡しを要求しました。 わたしたちは、２人の斥候は、多分、旅人のように変装し、遊女ラハブの家に入ったのに、どうして、怪しい人物がラハブの所に入ったとき通報されたのかと思うのです。考えてみますと、エリコの町の人々は、もちろん、イスラエルの民が、エリコに総攻撃をかけようとして、ヨルダン川の向こうで着々と戦闘準備を整えていることをすでに知っていて、警戒していたので、見慣れない２人の人物が遊女ラハブの家に入ったのを見て、イスラエルの斥候と分かって、これは一大事と王に通報したのであろうと思われます。 ３節を見ますと、「お前のところに来て、家に入り込んだ者を引き渡せ。彼らはこの辺りを探りにきたのだ」とありますが、この表現は、イスラエルの斥候か、遊女ラハブの家に入ったのをはっきり知っていることを表しています。 以上のようにしまして、今や、ヨシュアから遣わされたイスラエルの２人の斥候は、大ピンチに陥ったのです。もちろん、そのままですと、2人の斥候は、エリコの兵隊たちに捕らえられ、殺されてしまうことは明白です。そうすれば、エリコの情報は、ヨシュアに入りませんので、カナン侵入の計画全体がこれで崩れることになります。また、２人の斥候かとらえられて、殺され、犠牲者が出ることは、イスラエルの民全体に大きな悲しみを与えることにあります。 さあ、このままですと、カナンが侵入作戦は、その最初でつまずいてしまうことになります。 ３．ラハブは２人の斥候を命をかけてかくまいました この時、遊女ラハブの家に入りこんでいた2人のイスラエルの斥候の気持ちはどうだったでしょうか。だれにも気づかれないと思っていたのに、そうではなく、もうすでに、王から兵隊がラハブの家に派遣されて、自分たちをとらえに来たことを知ったときに、どのような気持ちであったのでしょう。 少なくとも、「これは困ったことになった」と思ったことでしょう。あるいは、「これでもう終わりだ。」と思ったかもしれません。とても、逃げられないと思ったかもしれません。私たちが、この２人の斥候の立場にあったらどのように思うでしょうか。遊女ラハブが、自分たちを助けてくれるとは思っていなかったでしょう。 ところが、２人の斥候が思ってもいなかったことが起こったのです。イスラエルは敵であるはずのエリコの町の遊女ラハブは、なんと、その時、機転を利かして、うそをついてイスラエルの2人の斥候をかくまったのです。これは、驚くべきことでした。 通常でしたら、もちろん、２人のイスラエルの斥候を、エリコの兵隊に突き出すのです。それが、エリコの住民の義務です。イスラエルは、エリコ住民の敵です。エリコを滅ぼすために総攻撃の準備をしているのです。 しかし、ところが、２人の斥候が思ってもいなかったことが起こったのです。遊女ラハブは、うそをついてまで、２人の斥候をかくまったのです。もし、それがバレれば、ラハブが殺されることは明白です。そして、ラハブだけでなく、ラハブの家族一族も殺されるかもしれません。ですから、この時、ラハブが嘘をついてかくまったことは命がけでした。ラハブは、２人の斥候を、急いで、家の屋上に連れていって、そこに並んで立てかけてあった亜麻の束の中に2人を隠しました。 そして、戻ってきて、兵隊たちに言いました。「２人のイスラエルの斥候は、確かに、自分の家にきましたけれども、しかし、「日が暮れて城門が閉まるころ」、すなわち、夕方には、自分の家から出ていった、そして、自分は、彼らがどこ行ったのかまでは知らない。でも、今から、急いで手分けをしておりかければ、間に合うかもしれない」と、うそまでついて2人の斥候をかくまいました。 そこで、兵隊たちは、ラハブの家を出て、ヨルダン川に通じる道を渡し場まで探索しましたが、もちろん、２人の斥候を見つけることはできませんでした。そして、追っ手の兵隊が城門を出たときに城門も閉められてしまいました。そのため、ラハブの家に隠れている、２人のイスラエルの斥候もエリコの町から城門を通って外に出ることはできなくなりました。 こうして、ラハブは、嘘をついてまで ２人の斥候をかくまいました。そして、実は、これがもうラハブの信仰になります。ラハブが、この時、これほどのことをしたのは信仰です。ラハブが、なぜこんなことをしたのかは、もう少し後で明白になります。そして、それは信仰でした。 この時に、２人のイスラエルの斥候はどのように思ったでしょう。聖書には記してありませんが、びっくりしたのではないでしょうか。そして、これは、神の助けであると思えたのではないでしょうか。 今日のわたしたちの生活においても、これは神の助けであると、率直に思えるようなことがたくさんあるでしょう。わたし自身もたくさんあります。そして、これは神の助けであると率直に思えるようなことがあるからこそ、わたしたちは喜んで信仰生活ができるのです。 ３．ラハブは機転を利かして２人の斥候を亜麻の中に隠しました さて、ラハブは、兵隊たちを返してからどうしたでしょうか。すると、ラハブは、２人の斥候が隠れているところへ行きました。２人の斥候が隠れていたところは、エリコの町を囲っている二重の城壁に木材を渡して、その上に作った家であったと思われますが、その家の平らな屋上に２人の斥候を連れて行き、そこにたくさん並べてあった亜麻布の原料になる、高さ６０センチから１メートル２０センチほどの亜麻の茎の中でした。 ここで、エリコの町の城壁についてお話しをしておきましょう。エリコの町は、二重の城壁で囲まれていました。一説によれば、外側の城壁は厚さ２メートル、そして、５メートルの間隔をおいて、内側の場駅の厚さは４メートルでした。そして、高さは、外側の城壁も、内側の城壁も１０メートルでした。今日の建物の３階建て分に当たります。そして、その二重定の駅の間に木材を渡して、その上に家がたくさん作られていました。そして、その家の屋根、すなわち、屋上は平らになっていて、いろいろなものを置く場所などに使っていました。 ラハブの家も、その二重の城壁の上に作られた家の一軒でした。そして、平らな屋根、すなわち、屋上は、いろいろなものが置いてやって、その時は、亜麻布の原料となる亜麻の茎がたくさん並べられていました。亜麻の茎は、６０センチから１メートル２０ほどあったそうです。その間に、２人の斥候を隠しました。遊女ラハブは、機転の利く女性であったのでしょう。 ４．イスラエルの神ヤーウェこそが、力あるまことの神であると確信していました では、どうして、ラハブは、２人のイスラエルの斥候を命をかけてかくまったのでしょうか。すると、それには明白な理由があったからです。８節から１３節がそうですが、その理由は、驚くべきことに、実は、エリコの町を章攻撃しようとして戦闘準備を整えている、敵にあたる、イスラエルの人々が信仰している神ヤーウェこそが、力あるまことの神であると心の中で確信していたからです。確かに、ラハブは、イスラエルの一員ではなかったので、まことの神ヤハエについて詳しいところまでは知らなかったのです。しかし、ラハブは、自分の知っているところにおいて、イスラエルの神ヤーウェこそ、力あるまことの神であることを心の中で確信していたのです。これは、もう、信仰と呼ぶことができるものでした。 それで、８節から１３節を見ましょう。ここには、ラハブの信仰がピカピカ光っています。５つの点からラハブの信仰をみましょう。 第１点は、ラハブは、イスラエルの神ヤーウェが、エリコも含めてカナンの地をイスラエルの民に与えようとしていることを自分は確信していることを語っています。９節で「主がこの土地をあなたたちに与えられたこと・・・をわたしは知っています。」とはっきり表明しています。「与えられたこと」と、もう、すでに与えられたかのように語っています。これはラハブの信仰です。 第２点は、ラハブは、エリコをはじめカナンの住民たちは、まことの神ヤハエに導かれているイスラエルの民に勝てないで、敗北することを認めていることです。９節に「また、そのことでわたしたちが恐怖に襲われ、この辺の住民は皆、おじけづいていることを、わたしは知っています」がそうです。ラハブは、まことの神ヤーウェを信ずるイスラエルの民が勝利して、自分たちが敗北することをはっきりと認めています。これもラハブの信仰です。 第３点は、ラハブは、イスラエルが勝利し、自分たちが敗北することの根拠として、かつて、イスラエルの神ヤーウェが、紅海の水を２つに分けて、イスラエルの民を通したことと、イスラエルの民の旅を妨げようとした、砂漠の２人の王シホンとオグが、イスラエルに撃滅されてしまったことを十分承認しています。 １０節に、「葦の海の水を干上がらせたたこと」とありますが、これは、紅海の水を2つに分けて、その底をイスラエルの民が通った出来事をあらわします。また、「アモリ人の２人の王に対してしたこと」というのは、イスラエルの民の旅を妨げようとした砂漠の2人のアモリ民族の王であったシホンとオグがイスラエルと戦って、壊滅的打撃を受けた出来事を表しています。 それらの出来事は、イスラエルの神ヤハエの偉大な力を表すものでした。そして、その噂は、エリコはじめカナンの住民がみんな知っていたと思われますが、ラハブは、知っていただけでなく、そのようなことができるのは、ヤーウェがまことの神であるからだと心の中で最も率直に認めていたのです。 第４点は、ラハブは、力あるまことの神ヤハエを信仰するイスラエルの民の完全勝利と自分たちの完全敗北をもう認め、２人のイスラエルの斥候の前で、ヤーウェこそまことの神であることをはっきりと表明したことです。１１節後半に、「あなたたちの神、主こそ、上は天、下は地に至るまで神であられるからです。」がそうです。これは、ラハブの信仰告白といえるものです。イスラエルの２人の斥候の前で、イスラエルの神こそまことの神であることをためらいなく表明しました。これが信仰告白でなくて何でしょう。 第５点は、ラハブは、２人の斥候に、ヤーウェにかけて、自分と自分の身内の命を、鯵攻撃のときに守るという保証を求めたことです。１２節後半がそうです。「あなたたちも、わたしの一族に誠意を示す、と今、主の前でわたしに誓ってください」がそうです。すなわち、「主の前で」と言って、ラハブは、イスラエルのまことの神ヤーウェにかけて、自分と身内の命を章攻撃のときに守ることの保証を求めたのですから、これはもう信仰です。信じてない人がどうして、神に誓わせるでしょうか。 こうして、ラハブは、自分の知っている知識で、イスラエルの神ヤーウェを力あるまことの神と確信し、信仰して、イスラエルの2人の斥候をかくまったことがわかります。 もちろん、ラハブは、イスラエルの民のように、まことの神ヤーウェについて詳しく知っていたわけではありませんが、しかし、自分の知っているところで、まことの神ヤーウェを信じました。 今日も似たところがあります。わたしたちは、まことの神とその神が遣わして下さったイエス・キリストについて何でも知っていなければ信じられないということはありません。それならだれも救われないことになるでしょう。基本的なことを知っていればそれで良いのです。それで、救われ、豊かな祝福を十分受けるのです。後は、信仰の延長をしていけばよいのです。 ５．ラハブは２人の斥候を無事に逃しました では、ラハブは、それからどうしたでしょう。すると、ラハブは知恵を組み働かせ、夜の暗闇を利用し、城壁上に建てられていた自分の家の構造をうまく使って、家の窓から綱を用いて、釣り下ろしました。そして、ラハブは適切な助言をして、まず、エリコの町の裏手にある洞穴の多い山へ行って、そこで、２日間潜んでいて、エリコの兵隊たちが探索をあきらめて、引き揚げたときに、シッテムのイスラエルの陣営に戻るように助言をしました。 そこで、２人の斥候は神にかけて、ラハブに約束をしました。すなわち、すこし後に、イスラエルがエリコの町を攻撃する時に、ラハブが目印として、窓から赤いひもを垂らしておけば、そこはラハブと身内の者がいるところとして、その家にいる者には手をかけることがないことを保証しました。 こうして、２人の斥候は、窓から綱で釣りをされて、山の方へ逃げました。すると、ラハブは、賢く、直ちに、すぐに、自分の家の窓から赤いひもをたらしたのです。これはラハブが、２人の斥候が、まことの神ヤハエによって誓ったことを信じたからです。ここからもラハブの信仰は明白です。 結び 以上のようにして、わたしたちは、ラハブの出来事を見るのですが、新約聖書は、何のためらいなく、それが遊女ラハブの立派な信仰から出た勇気ある行為であったと称賛して、クリスチャンのお手本として語るのです。 ヘブライ人への手紙１１章３１節では、「信仰によって、娼婦ラハブは、様子を探りにきた者たちを穏やかに迎え入れたために、不従順な者たちと一緒に殺されなくてすみました。」と記し、 また、ヤコブの手紙２章２５節では「同様に、娼婦ラハブも、あの使いの者たちを家に迎え入れ、別の道からを送り出してやるという行いによって、義とされたではありませんか。」と言われていて、どちらも、ラハブの信仰と信仰から出た勇気ある行動が称賛され、クリスチャンの良いお手本とされています。 そして、さらに新約聖書の第１頁であるマタイによる福音書の冒頭の救い主イエス・キリストの先祖の系図の中に、遊女ラハブの名前が出てきます。すなわち、その後、ラハブは、イスラエルの民のサルモンという人と結婚をして、ダビデ王の４代前の先祖となり、かつ、主イエス・キリストの肉の先祖にもなるという、思ってもみない大きな誉れを受けることになるのです。何と大きな恵みでしょう。 そして、これらのすべては、異教とのひとりに過ぎなかったラハブが、目に見えない、力あるまことの神ヤーウェを信頼したことから始まったのです。そして、このことは、今日も同じです。わたしたち一人ひとりの人生におけるよいことは、聖書の教えるまことの神と、そのまことの神が遣わして下さった主イエス・キリストへの信頼から始まるのです。それゆえに、わたしたちも、一人一人が、これからも、まことの力ある神とその神が遣わしてくださった主イエス・キリストを心から信頼し、豊かな祝福を日々受けながら喜んで歩みをしていきましょう。 解題 この説教は、わたしが、２００１年７月２２日の南浦和教会の 家庭周りの夕べの礼拝で説教したものです。
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