聖　書

2:16 だから、あなたがたは食べ物や飲み物のこと、また、祭りや新月や安息日のことでだれにも批評されてはなりません。17 これらは、やがて来るものの影にすぎず、実体はキリストにあります。18 偽りの謙遜と天使礼拝にふける者から、不利な判断を下されてはなりません。こういう人々は、幻で見たことを頼りとし、肉の思いによって根拠もなく思い上がっているだけで、19 頭であるキリストにしっかりと付いていないのです。この頭の働きにより、体全体は、節と節、筋と筋とによって支えられ、結び合わされ、神に育てられて成長してゆくのです。

はじめに

　本日のところは、コロサイ教会周辺に出現した異端は、人はキリストを信じるだけでは救われず、旧約時代の飲食やお祭りに関するおきてである儀式律法といわれるものを守るように求めました。しかし、それらのものは、将来出現するキリストを指し示すものでしたので、キリスト御自身が出現したときには、使命を十分果たして廃止されるべきものでした。そこで、パウロは、飲食やお祭りに関するおきてである旧約時代の儀式律法を影、キリスト御自身を実体と呼んで２つを比較し、影にまさる実体の圧倒的素晴らしさを教え、影に相当するものに心を向けるのでなく、実体に相当するキリスト御自身に心を向けるように力強く勧めたところです。今日のわたしたちも、何物にもまさって圧倒的に素晴らしい生けるキリストに、わたしたちの大切な心を向け、キリストにしっかりつながり、聖霊の豊かな働きにより、祝福をたくさん与えられ、霊的に円熟し、成長し、信仰の道を喜んで歩んでいきたいと思います。

１．異端は旧約時代のものをまだ引きずっていました

　１６節に「食べ物や飲み物」とあります。これは、コロサイ教会周辺に出現した異端は、人は救われるため、キリストを信じただけでは十分でなく、ある食べ物を食べないこと、また、ある飲み物を飲まないことが必要というふうに禁欲を要求したことを意味しています。なぜ、食べ物に関する禁欲を主張したのかというと、旧約聖書のレビ記１１章に、食べてよい清い動物と食べてはいけない汚れた動物のことが、神から命じられていたからです。牛とか羊などのように、ひづめが分かれ、さらに、反すうする動物は清いので食べてよいのですが、らくだ、岩狸、豚は、その２つの条件に合わないので、汚れており、食べてはいけないということが神から命じられていました。

なぜ、レビ記にはそのような区別が神から命じられていたかというと、イスラエルの民に、神の前での清さと汚れを実物教育で教えるためでした。動物が清い動物と清くない動物に分けられるように、人類も、神の前に、罪が赦された清い民と罪が赦されていない清くない民がいることを教え、イスラエルの民は、恵みにより、罪が赦された清い民であることを自覚し、罪から離れて歩むためでした。

　罪が赦されて清くされるというということは、もちろん、将来、救い主メシアのイエス・キリストが出現し、十字架上で人々の罪を贖い赦し、罪から清めてくださることを指し示していました。ですから、イエス・キリストが出現したときには、旧約聖書レビ記の、食べてよい清い動物と食べてはいけない汚れた動物の区別の命令は、目的を果たして廃止されましたので、キリストを信じる人は、何を食べてもよいのです。

　「飲み物」というのは何でしょう。旧約聖書レビ記１０章９節に、祭司は、神の臨在する聖なる幕屋で奉仕をするときには、お酒、すなわち、ぶどう酒を飲んで奉仕してはならないと、神は命じました。また、旧約聖書の民数記６章１節から２１節で、神に、何かを特に願う場合は、一定期間、お酒、すなわち、ぶどう酒を断ちなさいと、神はイスラエルの民に命じました。

　これらから、コロサイ教会周辺に出現した異端は、人は救われるため、キリストを信じただけではだめで、ぶどう酒およびそのたぐいのものを一切飲んではいけないと主張し、禁欲を要求しました。しかし、この主張も誤りでした。なぜなら、祭司が奉仕をするとき、ぶどう酒を飲んではいけないと命じられていたのは、酔った状態で神に対する奉仕をしてはならなかったからです。また、神に特に何かを願う場合、一定期間ぶどう酒を断ちなさいと、神は命じましたが、その意図は、その期間は、好きなぶどう酒を断つことまでもしても、あることを神に願っているという熱心さを表わしなさいという意味でした。

　ところが、コロサイ教会の異端は、旧約聖書のそれらの意図をまったく無視し、人が救われるためには、ぶどう酒およびそのたぐいのものを一切飲んではいけないと自分勝手に解釈をし、人々に禁欲を要求しました。しかし、救いのため食べ物や飲み物を禁止して、禁欲を要求することは、根本的な誤りでした。そこで、パウロもテモテへの手紙一４章３節から５節で、次のようにはっきり教えました。偽りを語る者たちは、「・・・ある種の食物を断つことを命じたりします。しかし、この食物は、信仰を持ち、真理を認識した人たちが感謝して食べるようにと、神がお造りになったものです。というのは、神がお造りになったものはすべて良いものであり、感謝して受けるならば、何一つ捨てるものはないからです。神の言葉と祈りとによって聖なるものとされるのです。」と明白に教えているとおりです。実際に、わたしたちクリスチャンは、お祈りして感謝して聖なるものとして何でもおいしくいただきます。旧約聖書のレビ記では禁じられていることになる豚肉でも、おいしく食べます。豚肉が食べられなかったら力が出ないでしょう。

　次の「祭りや新月や安息日」というのも、旧約時代のイスラエルの年に数回の大きなお祭りや毎月第１日目に神への献身を表す儀式や週の終わりの７日目に仕事を休んで神を礼拝する日である安息日についてのおきてである儀式律法といわれるものを、守らなければ、救われないと、異端が主張し、人々に守ることを要求していたことを表しています。

　「祭り」というのは、エルサレム神殿を中心にして行われた大切なお祭りを表しています。たとえば、今日のカレンダーの毎年３月から４月にかけて、過越祭がありました。過越祭は、イスラエルの先祖たちが神に立てられた指導者モーセに率いられ、奴隷の地エジプトを脱出したことを記念するお祭りでした。五旬祭、５０日目の祭りがありました。五旬祭、５０日目の祭りは、過越祭から数えて５０日目のお祭りという意味で、今日のカレンダーにすれば５月から６月にかけてイスラエルの人々が小麦の初穂を持ってきてその年の豊かな収穫を祈るお祭りでした。仮庵祭がありました。仮庵祭は、出エジプトしてから４０年間、約束の地カナンを目指し、イスラエルの先祖たちが旅をするとき、木の枝や葉っぱなどで仮の庵、すなわち、仮の家を作って荒れ野で暮らしたことを記念するお祭りでした。

　「新月」というのは、新しい月に入った最初の日の儀式で、その月も神への献身を表す儀式でした。これは毎月第１日目に行われました。「安息日」というのは、１週の終わりの日の第７日目、今日でいえば毎週土曜日に、すべての仕事を休んで、すべての仕事から離れて安息し、エルサレム神殿や各地の会堂で神を礼拝する神聖な日のことを表しています。

　こうして、旧約時代において、神はイスラエルの民にいろいろなお祭りや安息日を守るよう命じました。それらを守ることが、イスラエルの民の救いとなりました。しかし、旧約時代のイスラエルのそれらの儀式は、すべて、将来現れる救い主キリストを指し示していました。たとえば、奴隷の地エジプトを脱出した出エジプトそのものが、罪の奴隷からのキリストによる解放を指し示していました。過越祭には、子羊をほふって食べました。それは、後に、人類の罪の赦しのためにキリストが十字架上でほふられることを指し示していました。約束の地カナンを目指し、荒れ野で、仮の家に住みながら、旅をしたことは、信者がキリストによって約束された永遠の命を目指して地上の旅をしていくことの型、タイプ、予表でした。五旬祭、５０日目の祭りは、天にお帰りになったキリストが天から地上の教会に聖霊を豊かに注いで、救いの豊かな霊的収穫が世界において始まることを指し示していました。

さらに、毎月第１の日の神への献身を表明する儀式は、信者がキリストによって自分たちを救ってくださった神への献身を指し示していたと言えるでしょう。安息日は、キリストの罪の赦しによって永遠の安息が将来与えられることを約束するものでした。こうして、これらすべては、将来現れるキリストを指し示すものでした。したがって、キリストが出現したときには、これらのものはすべて使命を十分に果たして廃止されるものでした。実際に、徐々に廃止されていきました。初代教会も、過越祭、仮庵祭、五旬祭、新月、週の終わりの第７日目毎の、すなわち、毎週土曜日毎の安息日礼拝を守ったりしなくなりました。

　コロサイ教会周辺に出現した異端は、キリストを信じるとともに、旧約時代のそれらの儀式にも心を向け、それの儀式を守らないと救われないと主張し、人々に守ることを求めました。それも、また、根本的な誤りでした。そこで、パウロは、旧約時代のそれらの儀式を影、旧約時代のそれらの儀式が指し示していたキリスト御自身を実体、すなわち、本体にたとえ、影に心を向けるのではなく、影など比較にならない圧倒的に素晴らしい本体そのものであるキリスト御自身に心を向けるように教えたのです。

　１７節で「これらは、やがて来るものの影にすぎず、実体はキリストにあります。」といわれています。影と実体とは、影と実体の２つを比較し、実体が影にはるかに圧倒的にまさって素晴らしいことを言うためのたとえです。今日でも、わたしたちは、もちろん、影というものをよく知っています。話をわかりやすくするために言うのですが、わたしたちは、自分が愛する人が日向に立っているとします。そこには、自分が愛する人そのもの、すなわち、実体、本体があります。そこは、日向ですので、自分が愛する人の影ができています。その両者を比較してどちらが素晴らしいですか、と聞かれれば、影の方が素晴らしいと答える人はだれもいないでしょう。すべての人が、異口同音に、それは、愛する人そのもの、実体、本体ですと即座に確信をもって表明するでしょう。ためらわないでしょう。

　本当にその通りです。愛する人本人とその影を比べれば、愛する人、本人の方が、圧倒的に素晴らしいのです。わたしたちの心は、影などに少しも向かないです。わたしたちの心は、そのすべてが、全部が、一切が愛する人本人に向くのです。そして、わたしたちの心は、喜びで満ちあふれます。それと同じです。わたしたちの大切な心、魂、霊魂は、キリスト本体、キリスト御本人、生けるキリストに向いたとき、聖霊の喜びで満ちあふれるのです。役目を終わって廃止された旧約時代の古びた儀式で満たされることはできません。

２．異端の謙遜は偽りの謙遜です

１８節に「偽りの謙遜と天使礼拝」とあります。コロサイ教会周辺に出現した異端は、一見、謙遜でへりくだっているかのように見えます。なぜなら、異端は、救いのために、食べたい食べ物を食べず、飲みたいぶどう酒を飲まないというのですから、一見謙遜です。また、旧約時代の神の民イスラエルが厳格に守っていた祭りや新月や安息日を、自分も厳格に守っているというのですから一見謙遜です。しかし、それは、謙遜でなく、守らなくてもよいものを自分勝手に守って、救いを壊しているのです。

　異端が、キリストだけでなく、天使も拝んでいますと言えば、一見、信心深く謙遜に響きます。しかし、天使を拝む必要はありません。人類のただひとりの救い主メシアにして神の御子、神御自身である偉大なキリストを礼拝すれば、それで十分で何の不足もありません。また、異端の教師たちは、自分たちは、幻の中で、霊的な真理を神から直接親しく見させられ、教えられたと吹聴し、自分がいかに神から尊ばれているかを人々に見せつけようとしていましたが、それは事実無根であり、むなしい人間的な誇りであり、思い上がりでした。神が異端の教師たちに、幻の中で親しく語るなどということは決してありませんでした。自分勝手にそう言っているだけのことでした。異端というのはいつの時代でも客観性のない自分勝手なものです。

「幻で見たことを頼りとし」というのは、霊的な真理を神御自身から幻のかたちで親しく直接見せられ、教えられることを表します。聖書の時代には実際にそのようなことがありました。旧約時代において、神が幻の中で、信仰の父アブラハムに親しく語ったり、預言者エゼキエルに親しく語ったり、預言者ダニエルに親しく語ったりということがありました。

　新約時代においても、キリスト御自身が、ペテロやパウロに、幻の中で親しく語りかけたことがありましたが、異端の教師たちに、同じようにするなどということは決してありません。「肉の思いによって」というのは、人間的な思いでという意味です。ですから、実際に、神が、コロサイ教会周辺に出現した異端の教師たちに幻の中で親しく語りかけるなどということはありませんでした。彼らが自分勝手に、そのように主張し、自分たちがいかに神から尊ばれているかを人々に人間的に誇るためでした。　

異端というのは、変な魅力があって、人々を引きつけますので、ひかれる人々も出てくるでしょう。でも、それらは客観的な根拠はありません。自分たちが勝手にそのように言っているだけのことです。わたしたちは、聖書の教えに従い、人類の唯一の救い主メシアにして神の偉大な御子であり、神御自身であるキリストを礼拝するだけで、確実に救済され、その救済はこの世にあってもかの世にあっても永遠の効力を持つことを確信し、喜んで歩みましょう。

３．異端はキリストにしっかりつながっていません

１９節をみましょう。キリストだけを信じても救われず、食べ物や飲み物の禁欲も必要、旧約時代のイスラエルの祭りや新月や安息日を相変わらず守ることも必要という異端は、教会の頭であるキリストそのものにしっかりつながらず、満たされていないところからきていました。これでは本来の豊かなキリスト教信仰は成り立ちません。本来の豊かなキリスト教信仰というものは、頭であるキリストと信者の信仰共同体である教会の深い結びつきによって成り立ちます。

　１９節に「頭」「体全体」「節と節」すなわち、関節と関節、「筋と筋」すなわち、じん帯とじん帯、「支えられ、結び合わされ」というような表現を見ます。これらの表現は、頭と体がしっかり結びついてひとりの人間が成立しているたとえで語られていることは明白です。聖書の時代の人々は、関節と関節、じん帯とじん帯によって支えられ、結び合わされている体は、頭が体全体に指図を与え、頭が体全体に力を与え、頭が体全体を生かすものと考えていました。体全体は頭によって全存在が保たれていると考えられ、頭を最も大切なものに見たのですが、当時の観方でここが描かれています。

　体は、手や足などのいろいろな部分が関節と関節、じん帯とじん帯で支えられ、結び合わされて、体を構成しているように、信者は相互に信仰によって結ばれているのです。しかし、体が存在するためには頭にしっかり結びつくことが必要なように、信者の共同体も、頭、教会のかしらであるキリストにしっかり結びつくことが必要であることが、強調されています。本当にそうです。信者の共同体である教会が、頭であるキリストにしっかりつながっていれば、信者の共同体である教会は、聖霊により命の水をたっぷり注がれて満たされ、潤い、充足し、神に育てられ、霊的に成長します。１９節に「頭であるキリストにしっかりと付いていないのです」とあり、これこそ異端の大失敗であることを教えています。「しっかり付いている」という言葉は大変興味深い言葉です。もともと、「逮捕する」という意味があるくらい、強い言葉で、しっかりぴったりくっついていることを表します。

　逮捕するというのは、警察や刑事が犯人を逮捕します。犯人を捕らえると手錠をガチャとかけて逃げられないようにします。犯人は観念します。これを当てはめると、頭であるキリストにしっかり付くということは、信者の共同体である教会がキリストを逮捕して、決して自分のところから逃げられないようにして、自分のものにすることを意味しています。それほど、頭であるキリストにしっかり結びついて離れないようにすることを印象深く読者に教えているのです。キリストを決して逃がさないほど、キリストくっつくのです。イエス様、わたしたちはあなたを決して逃しませんよというほど、イエス様とくっついて、わたしたちの心、魂、霊魂が満たされる深い交わりをすることを意味しています。

結び

　以上のようにして、本日のところを見ます。救いと祝福と永遠の生命のためには、生けるキリストを信じて、礼拝するだけで十分です。それ以外のものは何もいりません。キリストはそれほど霊的に豊かなお方で、わたしたちが、教会としても個人としても、キリストからどれほど霊的な祝福を汲みだしても尽きることがありません。キリストには無尽蔵の霊的な豊かさが永遠にあります。わたしたちは信者の共同体として、これからも、信仰により、生けるキリストにしっかり付いて、救いと祝福と永遠の生命を自分たちのものとして受け、クリスマスを目指し、共に喜んで歩んでいきましょう。